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情報マネージメント概論 -- 「教育の情報化と情報マネジメント」

2003年11月10日(月) 8:40〜 情11教室
情報マネージメント概論・教育の情報化と情報マネジメント
担当:堀田龍也教官

授業

最初ビデオを見ます。15分くらい。

#教育フォーカス「コンピュータを教育にどう生かすか」

NHK教育で放送された,教員向けの番組です。

今のは2000年の番組でした。番組中では5年後にはどの学校もこうなると言っていましたが,今からすると,2年後のことになります。もはや,公立学校のインターネット接続率は99%を超えています。情報学部でやられているすばらしい環境は,ふつうの小中学校でも整備されます。また,今年度からは,高校でも情報が始まっています。情報学部を卒業したって事のアドバンテージはどこにあるか。考えて欲しい。

この授業は,情報マネジメント概論の各論10回のうちの1回になります。

情報学部のキャッチコピーは文工融合ですが,みんなも知っているとおり,文と工でカルチャーが違うので融合は非常に難しいです。ただ,情報科学科の文系よりの人,情報社会学会の工学系よりの人。研究室の中では文工融合しています。情報マネジメント系の人は,みんなから見ると文工融合の人に見えると思う。

僕の経歴は,教育学部を出て,小学校の教員をやったあと,大学院は情報工学科を出ました。教育学部の教官をやったりして,今は情報学部です。文系と工学系を行ったりきたりしている。社会人として大学院に通った経験もあります。僕の研究室には学校現場の先生が来ているし,民間の企業とも共同研究をしています。

僕の専門分野は現実と結びついています。本を読むだけではなく,システム作るだけでなく,実際の学校現場へ出て行ってどうかということをやっている。学生の卒業研究も企業との共同研究の一部になっていたりする。これは学生にとっては大変,だって自分だけの問題じゃなくなっているわけですから。でも,いずれ社会に出て行ったらやることだから,というのもある。実際に共同研究をやっている企業に就職が決まった例もあるので,企業にこういう人材が欲しいと思ってもらえるいい機会でもあるかもしれない。

文工融合,社会とつながった研究というのをイメージしてもらうために,まず僕の研究室がどうなっているかということを学生の生活も合わせてお見せします。

#堀田研究室PV

意味のわからないものもあるかもしれないけれど,こういう感じで学生が暮らしている。今のを見てわかるけれど,学生がいろんな活動に参画している。犬小屋を建てているのは犬小屋の研究じゃなくて,屋外にライブカメラを設置して,子ども田んぼの様子をいつでも見られるようにしようという研究の一環です。何か現実を相手にしようとしたときには,あらゆる活動に参画しないといけない。

これから研究が始まりますが,これはタブレット,こういうものが授業でどう使えるかということを研究します。

卒論の中でeラーニングの発表がありました。「情報科学基礎」という授業ですが,こういう授業で,どの学習者がどこでつまづくかみたいなことも研究対象になります。

僕の専門は教育の情報化ですが,なぜ教育の情報化か。これはインターネットアクセスが多様になっている図です。モバイラビリティが高まって,ユビキタスな環境になっていく。そうすると,いつでもどこでも学べるようになる。社会人に対してはeラーニングの話になるし。小学生では,システムを使って進度が違う子に対しての個別化された支援とかいう話になる。

日本で平等というと,みんなセンスも能力も学ぶスピードも違うのに,同じことをさせるのが平等だと思っていたが,それは違う。みんながかけているメガネが,みんな違うようになっている,それが平等です。

もちろん,学習や教育の全部がシステムでできるかというと,当然そうでないわけで,人間がやれることはやらないといけない。

今の教育の情報化の話は,別に僕の持論じゃなくて,e-Japanの重点計画でも,教育学習の進行と人材育成は重要な柱の一つになっています。これは文科省の方針じゃなくて,政府の方針。デバイドの是正ということは大切で,そのデバイドは教育によって是正しなければいけないわけです。

でも,さっきのビデオにあったように,教員はなかなか情報化していない。ところが,子どもはとっくに情報化しているわけです。都会では,小学生の子どもがいる世帯のインターネット接続率は9割を超えています。それで子どもは2chとか見たりするわけですが,先生は2chを知らなかったりする。掲示板に掲載される情報の質とか,掲示板の利用の仕方とかも子どもたちに教える必要があるかもしれません。韓国ではケーブルTV経由でのインターネット接続が急激に普及して,インターネット上の情報とか,モラルとかが社会問題になった。日本ではまだ問題になっていないが。それでもインターネットを利用した事件,特に子どもが関係している事件は増えてきていますね。

情報は国境を簡単に超えます。インターネットは9割が英語の情報です。英語や読めないとインターネットの9割が読めない,コンテンツだとみなせないことになります。しかし,日本の英語教育は惨憺たる状況。TOEFLの結果も芳しくない。これは大変なこと。英語教育をたくさん受けてきたけど使えない。つまり,今までの教育の仕方と社会の形にずれがあるんじゃないか。こういうことも含めて,いままでの教育の見直しがある。最近,学力の話が話題になっているのはそういう背景がある。

普通の人たちでも,英語がしゃべれるようになって欲しいとか,ITを使いこなせるようになって欲しい。という風になっている。今のは,社会で求められる能力が変わるから教育が変わるという例。

これはニューヨークで起こった悲惨な事件(911)。実際に見た人はいますか? グラウンドゼロにいった人は? 僕らは多くの出来事をメディアを通して見ています。マスメディアが正確な情報を流さないと大変。マスメディアはたぶん正確な情報を流しています。でも,いまや情報発信をしているのはマスメディアだけではないです。だから情報を読み解く力とか,適切な発信をする力が必要。

日本人は受信型の教育しかしてこなかったから,非常に受け身ですね。問題を出されたら解けるかもしれないけれど,プレゼンしろとか,そういう発信型のことをやらそうとすると,とたんにできなくなってしまう。社会では発信型の能力が求められたのに,教育がそれに追随できなかったということ。

#SBSニュースのメディアリテラシー映像。

今の番組に出ていた,鈴木先生という人が言っていたが,情報手段がいっぱいあって,それを使うのが目先の目標になっているけど,情報をどうやって得るかが重要なんですね。うちの学部では,森野先生や井川先生,赤尾先生なんかの研究領域と近いと思います。僕の立場,つまり教育側から見ると,キー入力みたいな細かいリテラシーは早く過ぎて,メディアリテラシーみたいな本質的な部分に時間を割きたいと思うわけです。

情報技術と教育の関係では,教育を支える情報技術と,情報社会を支える教育の二つがある。

教育を支える情報技術。技術をつかうことで今までよりも,よく教育ができるようになる。それが無かった時代に比べると,より学びやすくなる。より自分にフィットしやすくなる。知識の獲得の仕方がユビキタスになっていく。

情報社会を支える教育は,ITが使えればいい程度のものではなくて,今のメディアリテラシーみたいに根本的なこと。コンピュータもきっと今の形とは違う。学校でテレビの操作を教えないのは,みんなのうちにあるテレビの形が違うからで,それを教えても意味が無い。操作みたいな目先の問題じゃなくて,テレビから情報をどうやって得るかとか,ITを問題解決にどう生かすか,という話になってきている。

情報技術と教育を仲介するものとしてインターフェース。教育は人が学習するので,楽しく学べないといけない。教育にはそういうヒューマンな部分が必ずあるし,人間がどうやって学習するのか,という学習のメカニズムの研究がある。教えるということ,これは教育技術と呼ばれますが,どうやったらうまく教えられるか。また,コミュニケーションとコミュニティ。教育はコミュニケーションが無いと成立しない。またコミュニティに帰属して学べないといけない。eラーニングも個別化すれば必ずうまくいくということではないことが世界中でわかっている。また,知識は分散管理されているだけでは意味がない,それをどうやって統合して管理していくかというのが,ナレッジマネジメント。

このように情報マネジメントひとつとってもいろんな分野があって,教育だけでもいろいろやるべきことがある。僕の研究室では,学校でいろいろやっているだけじゃない。

ふたつだけ最近の研究を紹介します。携帯情報端末を使って,学習を高度化した例。経産省との共同研究。

協力したのは都田小学校,浜松市の北の端にある,田舎の小学校です。授業で子どもは近くの川に探検に行きます。川の上流・中流・下流に分かれて,水温や流れの速さを測定して,情報の共有をするわけです。授業が終わった後,学校に戻ってから自分たちの班のデータがおかしいということがないように,PDAに入力しています。数値をアップロードしていくと,共有できるような仕組みが動いています。そのためにモバイルのセンサーを利用したりする。

今のは小学校の例ですが,他にも水族館でも行いました。これは福岡のマリンワールドという水族館。水族館に行ったら,「へーお魚だー」で終わるのではなくて,きちんと学習に結びつける。もちろん子どもがPDAの画面だけ見ていても仕方が無いので,PDAから出てくるコンテンツは,魚の歯を見てごらんとか,実物に注目できるように,ナビゲートできるようになっている。この研究では,水族館を無線LAN化したが,水族館っているのは無線LANに不適な施設ですね。大きな水槽があったり,施設が複雑だったりして。学生が,事前にどの程度無線LANが通るのかということを調べに行きました。

こういう水族館では,子どもたちにどこを見たらいいかというコンテンツを持っているかどうかが重要です。ただ魚を飼育しているだけじゃなくて,来てくれた人にわかりやすいように説明できるかどうか,それが重要。博物館なんかで学芸員が僕らにわからないような難しい話をしているだけでは駄目です。マリンワールドは昔から教育活動に熱心だった。だから,子どもにどこを見せれば喜ぶか,どこに教育的に意義があるか,というノウハウがある。これは専門的な知識とはまったく別のノウハウです。

次に滋賀県の小学校とやった事例。

跳び箱の授業で,PDA模範演技の映像を見ます。普通体育館では映像はすぐには見れない。だからといって,教室で見てからでは意味が無い。自分が体験できるすぐそばにITがある,ユビキタスな学習環境。

算数の授業の終わりにPDAで確認問題をやります。回答を収集して,教師の端末に子どもがどこにつまずいたか,ということがすぐにわかるようになっている。学力保障が話題になっているが,こうやって,その日のうちにフォローができたりします。

今年取り組んでいるものは,キーボード入力に関する学習サイトです。これはスズキ教育ソフトという日本一のシェアを持つ教育ソフト会社とやっています。

キーボード入力は我流では伸びない。グラフを書くと頭打ちになる。だから指導が必要になるわけですが,キーボード入力の指導を研究している人たちはいて,彼らにすごいノウハウがある。ただ,それを日本中の教師に広げられるかというと難しい。広めるのに10年かかる,その間の子どもは大変ですね。だから,効率的に広めないといけない。

これがサイト。9月にオープンして,3万人の利用者がいます。
ちょっとやってみます。

#サイトでの学習の実演

全体が30級あります。級ごとにストーリーが出てきて,キャラクターと試合をするという形式でやるわけです。

もし間違ったり,負けたらもう一回やるんだけど,あなたの間違う文字は,何ですよとサジェスチョンしてくれます。

主なユーザは3・4・5・6年生。子ども向けソフトだからこそRPG風になっている。試合のほかにも自主トレというのがあって,ゲームになっていたりします。

こうやって30級から1級にあがっている途中でコンテストというのがあって,たとえばこれは,地図を見て,県名を入力していくものです。全国ランキングが出ます。なにが難しいかというとキーボードの入力ができないから難しいということではない。でも,キーボード入力って,キー入力のみを目的としてやる場合はほとんど無いわけです。

子どもたちは戦いの記録として,途中途中で賞状がもらえます。先生IDで入ると,自分が担当している誰が何級かということ,いつアクセスしたか,ということもわかる。家庭からもアクセスできるようになっているので,またゲームして!っていうことにならないように,保護者向けの文書例まで作っています。

これも数千万かかっています。このグランドデザインは去年にやりましたが,このくらいが3ヶ月くらいで開発できないとちょっと世の中についていけない。子どもがどいうことを喜ぶかということは現場の先生がわかるので,産学協同で,企業と現場教員と大学の研究者で,開発しました。

開発に当たって,キーボード入力指導で,ふたりの有名な教師に難易度を分類してもらった。ふたりともほとんど同じというのがびっくりしたが,そういう人の経験をシステムにしている。ただし,あくまで経験をシステム化したものだから,実際に子どもにやらせると違うということはあるかもしれない。

ローマ字表ひとつとっても,普通の人が作るのとではぜんぜん違う。この表は,ローマ字の仕組みを意識せざると得ないようになっている。こういうノウハウは現場の先生が持っている。

さらに,ログが取れていて,どこの小学校の誰ががんばっているかがわかるようになっているから,がんばっている子を取り上げて特集したりする。

今回の研究の目的は,キーボード入力学習のための学習支援サイトのデザインということだけど,研究成果としては,子どもがどのくらいキー入力ができるかとか,子どもがある程度のスキルを獲得するのにどのくらいの時間がかかるのかという研究。

これは級をクリアするのに,必要な試合数のグラフ。これを見るとどの級をクリアするのに,どの位の試合数が必要かがわかる。

入力ミスが多い字もわかります。各文字の正答率を見ると,「ぢ」「づ」の文字が,各学年ともに苦手,だから特別なプログラムがいるんじゃないか,とかそういうことになっている。

企業はWebサイトを提供して,学校現場からは実践事例が上がってくる。でも,それが本当に全体を示しているかどうかはわからない。大学の研究者は,コンサルティングをする。今回は設計以来と評価以来が,現場のデータを下に,評価をする。

何かをデザインするんだけど,評価情報をしっかりとって,その分析を元にして,また新しいデザインに戻す。情報マネジメントっぽいでしょう。

今のは,eラーニングでもある。でもコミュニティ支援もしているし,教育技術をナレッジマネジメントでもある。インターフェイスもやっている。どれかがやるんじゃなくて,どれも関係がある,これは情報マネジメント系の大変さ。どれかひとつでいいというわけではない。社会に出たときの問題解決は大体こうです。どこへ行っても問題解決のやり方はあまり変わりません。ニーズの分析とかデータの分析,そういうことを教育を舞台にしてやろうというのが,僕の研究。

ニーズとシーズの分析,それによってどこがシステム化できるか,人がやらないといけない部分は人がやるわけです。また,データ分析をして,運用に関する研究もするわけです。

こういうことをくぐっていくと,将来キーボード入力の支援を仕事にしなくても,たぶんしないと思うけど,同じようなことを経験しているから,役に立つ。情報マネジメント系が現場と寄りそっているということの意味はここにあるわけです。

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