http://horilab.jp/

マリンワールドに学ぶ/ITでつながる社会教育施設と学校

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堀田
では始めます。今日はマリンワールドから副館長の高田さんに来て頂きました。どういう人かはお話を聞けば分かると思います。今日の講義の趣旨について。皆さんHP見てレポート書いてくれていますが,水族館もまた情報化の中にあって,情報化によって水族館にとってもメリットがある。一方で,水族館が情報化することでユーザー側にメリットがある。水族館側からみると新しいマーケットの開拓,よりよいサービスの提供になる。そこでITがどういう役割を果たしているか。そのとき忘れてほしくないのは,分かりやすい○○というのがこの講義のキーワード。そもそも水族館はどういうわかりやすさの工夫をしてきたのか。それがITによってどうふくらんできたのか。それを考えて聞いてほしい。では,1時間半高田さんのお話を聞いて意見交換をします。

サメに喰うか喰われるか

高田先生・講演中の様子

高田
こんばんは。紹介にあずかりました高田と言います。海洋生態科学館。うちは、海の中道海洋生態科学館という株式会社が運営している博物館で、マリンワールド海の中道は施設名称です。今日は講義のテーマから博物館的な印象のある海の中道海洋生態科学館という名前でお話します。今回静岡に来るのに、実は私の大勘違いがあって,一昨日来るつもりにしていました。1日余分にお時間をいただいたので、その分内容の濃い話をしたいと思います。

水族館にはITがある。博物館が情報化することでどういういいことがあるか。学生さんの中には学芸員の資格を取りたいということでこの講義を聴いていると思う。学芸員目指している人?何人か居ますね。その人たちは後半に学芸員魂を話すので聞いて下さい。

水族館のあり方と情報化の関係。まじめな話の前に。一年間にサメにおそわれて死ぬ人の数。100人くらい?50人くらい?10人くらい。答えはですね10人くらい。10人もいないくらいです。サメが人を襲う恐い生き物と思いこんでいるかもしれませんが,世界では10人くらい。。サメは人が主食なわけではなくてイルカやアシカを食べている。人食い鮫といいますが,人が主食の鮫がいるはずはありません。たまたまその人が食べられたんです。海で泳いで,帰るときに交通事故で亡くなる確率の方が高いんです。

皆さんはサメを食べたことはありますか?ない、という方が多いようですが、では、フカヒレを食べたことがある人。ウィンナー食べたことある人。かまぼこ食べたことある人。これら総てにはサメが入っています。みんな知らないうちにサメを食べている。人を食べるサメは少ないのに、みんなサメは食べているんです。

サメはいなくなっていいか悪いか。サメは恐いからいなくなっていいと思う人は?(挙手,あまりいない)みんな模範解答だね。サメも海の生態系の一部として重要な位置を占めているということです。これはなぜ最初こんな質問をしたかというと,皆さんサメに誤解をしていました。100人以上おそうかもしれないと誤解した人もいたし,サメを食べたことがないと誤解している人もいた。そういう認識を変えていくのをだれがやるか。報道や新聞を見ても、映画を見ても、ジョーズのようにサメは恐い存在に仕立て上げられていて、本当の情報は伝わってこない。じゃあ,どこでサメの生態を知ることができるか。それは水族館や博物館です。学校の授業でもなかなか真実を知ることは出来ないわけです。本当のことを伝えるのは博物館や水族館の大きな使命です。

マリンワールドのネットワーク授業


パノラマ大水槽

この写真は当館で一番多きな水槽で1400tです。ここでダイバーが水中カメラで紹介する映像と音声を、遠隔授業(当館ではネットワーク授業と呼んでいる)に応用し、テレビ電話システムを使って遠く離れた学校に生き物の姿や資料を示すといった授業を行いました。平成10年に、NTTこねっとプランから、遠隔授業をしないかという相談がありました。その時に、まっさきにこのダイバーショーの映像と音声が使えると思ったわけです。この左の写真は奄美大島の古仁屋小学校です。

パノラマ大水槽
http://www.marine-world.co.jp/info/kannai/jyunro_mini/09.html

うちでやっているネットワーク授業一覧。「サメのためにできること」というサメの話。ほかにはヤドカリ,イソギンチャク,ラッコ,などいろんなテーマで授業やっています。うちは館内どこでもISDN回線をひっぱりだせるようにしています。テレビ電話のシステムをひとつのラックにのせて館内どこでも持って行けるようにしている。その生物のことについてすぐ授業できる。1コマ45分だけでなくても5分でも10分でもすぐできるようにしている。

マリンワールドの教育プログラム
http://www.marine-world.co.jp/er/proglam/index.html

情報発信基地としての博物館

今,冒頭,ネットワーク授業を例として示した。博物館や水族館のことを基本的なことをお話したい。皆さん水族館に行く目的はいろいろだと思いますが,たいていは暇つぶしや娯楽で行くかもしれない。勉強という目的で水族館に行かれた人はあんまり居ないと思う。水族館は海の生き物を見て憩いや癒しの場でもあるんですが,生き物の情報を伝えてくれる学ぶ場です。日本動物園水族館協会というのがある。そこで20年以上前から水族館には4つの役割があるといっている。リクレーション,教育,研究,自然保護。皆さんは1番目のリクレーションを目的に行っていると思う。実はこの4つのどれが欠けてもだめだと思う。これは飼育技師になるときに必ず出てくる問題です。教育というのも非常に大きな柱だということです。

日本動物園水族館協会(4つの目的)
http://www.jazga.or.jp/

だけども,皆さんはリクレーション機能を求めて行っている。教育や研究や自然保護があることを知らない。お客さんにはそのほかの3つの役割が伝わっていない。そのギャップがあるのは水族館側が努力していないからだと思うんですね。お客さんにはひとつの面しか見せていない。

それで広辞苑という辞書を引くと,水族館の定義には,水の動物を飼育して一般の観覧に供する。博物館の定義は,学術資料を公衆に観覧すると。水族館も一般の人に観覧する展覧する施設だと書いてある。皆さんにも水族館の定義を書いてもらうと,水の生き物を見る施設だと書かれる。それだと部分点しか与えられない。点数でいうと50点だけになる。私としてはもっとちがった解釈がほしい。人にみていただくという解釈だけでは不十分で,人に見て頂くこと+人に情報を伝える施設,ということです。それは生き物の姿だけではなく,どんな生き物か,どんな生態や能力をもっているかといういろんな情報をもっている。生き物の姿だけじゃなく,生き物の情報を伝えることができて初めて博物館になる。新定義としてこれから聞かれたらぜひ「学術資料を収集展示してこれらの情報を人に与える施設」と答えてほしいと思います。

つまり,博物館は情報を発信する施設なわけですね。情報発信するという行為は教育なわけです。人にいろんなことを伝えたいという気持ち。博物館は教育施設である。そこに勤める人は教育者でないといけない。ややもすると,博物館の職員は教育者という意識が低い。運営する人も,来館する人も教育機関だと意識してない。新定義を認識して意識を変えていってほしいと思います。

さあ「水族館」をつくろう

博物館学の講義を受けた方。まだの方。では聞いていない人は予習的に。水族館は博物館として申請できるんですね。博物館法を見ると水族館が博物館として認められる基準があります。実は博物館法は非常に古い法律が使われていて昭和26年くらいの古い法律が未だに使われているんです。

展示水槽はたった4つあればいいんです。「オレのウチでも博物館登録できる!」と思ったかもしれない。合計の水槽の体積が360m2以上と。豪邸ならクリアするね。もうちょっと条件があって,予備水槽や魚を備蓄する水槽を持ちなさい,と。別に魚がストックできて事務所があればいい,と。たとえば電話や机があれば事務所ということになる。自分で「事務所」と書けばいいんです。だんだん博物館登録したくなった人が居ると思います。次は営業。1年365日のうち何日運営したらいいと思う。実は100日以上開ければいいことになってるんです。3日に1回開けて,3日に1回遊んで、3日に1回アルバイトすればいい。これはいよいよ博物館登録しないといけないね。ところが,とても大事な条件がひとつ残っています。職員。学芸員の有資格者を有すること。どんなにいい施設があってもそこに学芸員が居ないと博物館として認めてもらえないということです。後で言いますが,学芸員の仕事は非常に大変な仕事です。その施設が博物館と呼ばれるために非常に大きな責任を持っているということです。

博物館の3つの責任

高田先生・講演中の様子

動物園や水族館は生き物の命をあずかっている施設です。標本や剥製を扱うところもありますが,水族館や動物園は生き物を扱っています。生き物に対して責任があります。自然界のほうが幸せかもしれないし,とらわれの場所に来るわけですから責任があります。動物園研究という本で3つの責任があるといっている。

1.すべての動物を平等に扱いなさい
生き物1匹100円だから,この生き物1200万円だからと値段で差別しない。あるいは,これはいっぱいいるから,これは1匹しか居ないから,と区別しない。

2.えさを与え繁殖の環境を与える
生き物にはえさを食べ繁殖するという基本的な機能があります。そのためには生き物を生き物として扱うにはえさを与えて,繁殖の環境を与えることが大事と。それが出来なければ飼うべきでないと。

3.動物の情報を発信する
ペットを飼っている人は、1と2の責任は果たして生き物を大事にしていると思いますが、3つ目が動物を預かっている動物園や水族館ならではの大きな責任です。生き物の情報を発信してあげる。動物は人の言葉がしゃべれない。だから自分がどういう生き物かを発信するすべがありません。それだからこそ、博物館の職員が彼らがどういう生き物か伝えてあげないといけない。この情報発信ができていなければ責任を全うしないことになります。

博物館の展示物は何か。皆さん博物館で何を見るか。ほとんどの方は展示されている資料が展示物だと思われているかもしれない。だけども,先ほどから情報発信すると言っているように,博物館に展示するのは資料だけでなく資料がもっている情報も大事な展示物のひとつだということです。どんな解説法をもっているか,解説のスキルが高いか,というのが今後博物館が評価される時代になります。たとえば私の水族館には世界でここにしかいない生き物が居るとか。今まで,日本の博物館は世界唯一で競い合っていた時代が長かった。言い方悪いですが,見せ物小屋的発想だった。だけども,これからはやっぱり展示するものが資料だけじゃない。その生き物が持っている情報も伝えて初めて展示ということになる。その情報を伝える方法を増やす。つまり,解説も重要な情報伝達としての展示物だということです。

情報伝達の方法と効果・コスト

そうなってくると,今まではアナログ的な情報展示があってました。展示,教育,研究にしてもアナログな展示が多かった。ここに来てIT化が進むと,展示も,教育も,研究もデジタル化していく。そこで解説は情報発信のひとつということで,この中で海外の動物園や水族館を見たことがある人。ほとんど皆さん日本の動物園・水族館しか見たことがないのかもしれない。海外の博物館や水族館はオトナの観覧にも十分耐えられる面白い施設なんですね。動物の姿を見せるのがうまいとかじゃなくて,見せ方や,情報の伝え方がすごくうまい。たとえば,みんなゾウがでかいことは知っている。アメリカと日本でゾウの大きさは同じです。同じゾウでも,アメリカの動物園の解説はゾウの大きさくらいあるんです。日本だとちっちゃいパネルに「アフリカ象」と書いて終わりです。たとえばゾウの展示で何があるかというと,ゾウの鼻と同じ大きさの模型があって体にまきつけてみるとか、鼻の穴から空気が噴出すしかけがしてある。ゾウのことを伝えるための情報の伝達方法をたくさんもっているということです。欧米では展示したいのは実物だけじゃない,ということを知っているわけです。解説が実物と同等に展示されているというわけです。

皆さん,動物園や博物館をレジャー施設だと思っていたかもしれない。解説は非常に大きな役割を持っています。楽しい解説があるとついついそれを試してみたくなります。そうやって学んでいきます。博物館の玄関口に「ぜひ解説を読んで下さい!」と書く必要はなくて,各展示物のところにお客さんが楽しみながら学べるような展示にすればいいんです。お年寄りやカップルなら彼らの興味関心にあわせた伝達ができる。そしてだんだんと意識を変えることができる。解説の充実は娯楽的な施設と学びをうまく接着してくれるものだと思っています。

情報伝達の方法には今までは文字,ボタンを押すと音声や映像が聞ける,ボランティアの解説員が居て施設や展示物の情報を伝えてくれる。いろんな情報伝達の方法があります。これはコストが下にいくほど増えるんだよね。下に行くほど新しい情報伝達の方法として注目されるかわりコストが高くなる。だけど効果は高い。たとえば人の情報伝達は,相手にあわせた情報伝達が出来ます。お年寄りやカップルなら彼らの情報受信にあわせた伝達ができる。すべていいものばっかりそろえるのはお金がかかる。いろんなコストや館の体力にあわせていろんな伝達方法をもっていく。大事なのは対話性。情報を伝えっぱなしで終わりにしない。対話性を心がけていく。

館の情報は水族館に来た人だけに伝えるものではない,ITを活用すると、外に発信していくことができます。eメールやCD-ROMやモバイルやPDAを使って外へ,世界中へ情報発信ができる。何も来館者だけに教育できるわけではない。水族館や動物園に来ない人にも教育が成り立つということです。来る前の方,これから来ようとしている方,あるいは都合で来られない方にITを使って情報発信していくことは非常に有効な手段です。双方向性はとても大事で一方通行で与えるだけでなく,相手の考えや気持ちが見えるような情報伝達の仕方が大事になります。

学校と博物館の連携=学社融合

水族館の時代がやってきた,と。学校との連携。学社融合という言葉聞いたことある人。総合的な学習の時間は皆さん知ってるよね。学社融合ってのは,学ってのは学校,社は社会教育施設。学社融合という言葉は文部科学省が国の教育行政の目標として掲げた言葉。これからは子供たちの教育は社会教育施設で。公民館や図書館や博物館で一緒になって子供を育てて行きましょうと。今まで教育は学校がすればいいと思われてた。地域全体になって子供を育てていこう,と。生涯学習で,いろんな年齢の方に教育の場として使って頂こうというのが学社融合。国の政策は変わってきているわけで,総合的な学習の時間,学校完全5日制にも学社融合は関係している。学校完全5日制も週末のゆとり時間に博物館などで活用しましょう,といろんな施策が動いています。

総合的な学習の時間も習っていると思いますが,国際理解とか,情報,福祉,健康,というテーマが入っている。指導時間に縛られないので教員以外が授業してもいいと。動物園や水族館には多くの資料や展示がある。今まで学校の先生で出来なかった部分を補っていけばいいんではないかと思っています。

つまり,水族館や博物館や制度の追い風が吹いている。そこで帆をあげて教育や研究に取り組んだ水族館が生き残るんです。珍しいものだけ展示するところは,それだけでは生き残れなくなります。情報発信に注目して注力するところが生き残るのではないかな。

学芸員はなんでも出来る

学芸員の多種多様な仕事

学芸員は非常に重要だということ話しをしました。ところが日本の学芸員はすごく忙しい。収集ってのは漁師さんにお願いして「魚釣って放り込んでおいて」というのはないんですね。漁師さんは食べるのを目的でとります。食べる直前まで生きていればいい。大事にとる必要もないし,大事に運ぶ必要もない。つまり収集からしないといけない。水族館の職員は健康にキズがない状態でつかまえるための技術と能力と経験が必要だということです。だから輸送も収容もそうです。他人任せで「じゃ,タイ入れといて」とはできない。輸送も飛行機や船や車に乗せたりします。

うちにシロワニというサメがいます。これオーストラリアからつれてきた。サメの背中に乗って来たわけではない。これは飛行機で乗ってやってきた。ジャンボ貨物機を1機チャーターした。チャーター料だけで3800万円。それでサメ6匹しか運べないんですが,そのサメも専用の輸送コンテナを調達する。輸送する容器やモノを作るところから考えて輸送をしないといけない。で,飛行機にのせて職員が貨物機に乗せる。そして貨物機の中でサメのお世話をするんです。えさをやるわけじゃなくて水質や健康状態の管理をしたりする。貨物機ですからシートが3人分しかない。その3人は自分たちのイスがある。ところがマリンワールドの職員は6人居るけど座るところがない。こんなパイプイスをもってきて貨物にのせて座りました。そうやって貨物機にのってオーストラリアから運んできたりします。あるいは香港から船をチャーターしたり。トラックも全国活魚車で運搬する。輸送手段も自分らでやると。

えさの入手。えさも自分たちでいろんな漁協とのネットワークで新鮮で大量で安定したえさを調達します。あるいは自分たちでえさを調達したり。普通の人に聞くと学芸員の仕事は7番目までは思いつく。ところが,大事なのは7番目以降で,調査や研究や解説の活動をしたりという部分が学芸員として求められる仕事です。

イルカの生態を見せるためのショー,自然保護も学芸員の仕事

それ以外にイルカショーをやる職員。ショーをやる人も学芸員です。ショーというとアトラクションですが,イルカショーやアシカショーも同じで,生き物の能力を引き出してショーとしてみせているだけなんです。アシカってどうしてボール落とさないで泳げるんだろう,イルカってなんであんなに高くジャンプできるだろう,という視点で見せるためです。ショーの中で「イルカの生態ってのはね…」とショーでいうことで,そういう説明があるだけで学びになる。うちのショーの中では必ず生き物の能力や生態にふれながらショーをやっています。皆さんショーをみるときは「なぜあんなことができるんだろう」という視点で見られると思います。

13番目。自然保護。水族館の役割に自然保護の役割があるといったら、自然保護団体からすると動物園や水族館はいらない,と。自然のものが見たければ海なり山に行けばいいと。虐待している産業だから自然保護なんて詭弁だという人も居るかもしれません。それはそれでいろんな考え方がありますから否定はしません。自然の生き物を預かったからには成果を野生に返す努力をしてるんです。たとえば種の保存ということで絶滅しそうな生き物を繁殖して野生に戻すとかね。フィールドで絶滅に瀕した生き物がどういう生態なのかと研究したり。あるいは弱っている生物を保護したりする。

マリンワールドにもゴビレゴンドウというのが飼育されている。4年前に佐賀県の唐津湾に迷い込んで海岸にうちあがって死にそうな状態だった。それを我々が鯨二頭連れ帰って,身体に病気があることがわかった。未だに飼育継続していますが,たとえばそういった野生の動物が弱って流れてきたらどこがやるか。水産試験場はやりません。保護して飼育するのは水族館しかないんです。水族館にはそういった生き物を保護できるスペース,技術,ノウハウがある。そこしかやるところがない。だけどそうやって保護してくれという話があっても,要請は出てもお金は出ません。私たちは鯨運ぶのに人出もお金もかかっています。維持管理費も発生します。2億5000万円もかけて水槽作ったけど,どこもお金出してくれないんですよ。自然保護団体守ろうといっても水槽作ってはくれないんです。誰がお金出して,誰があせを流してやるか,水族館しかないんです。

実は生き物を保護するときに危険もあるんです。鯨のお世話をしていたら暴れて職員は胸をプールの壁と鯨の間に挟まれて肋骨が13本折れました。そういう事故もあるんです。職員は命を呈して飛び込むんです。おととし鹿児島でマッコウクジラが16頭うちあがりました。保護依頼があってうちもとんでいきました。海岸では心配そうに見ている人が居ますが,誰も飛びこみません。うちの職員は飛び込んで,ロープをかけた。このような話からも,水族館が生き物を守るための仕事をしていることが分かると思う。

あとは雑務的にやっている。取材がくれば対応する。工作というのは収集の道具はどこにもないから自分たちで作る。水族館を維持するための免許も取得する。水族館の職員に必要な免許。ひとつは学芸員。ダイビングとか船の免許は思いつくと思う。面白い資格のひとつにクレーンの免許がある。必要なんです。何に使うか。鯨は1頭何百キロもあるし,1トン以上ある生き物もいます。クレーンしかないんです。クレーンの運転免許を持った人を探してたら間に合わない。必要なときにすぐ移動できるようにクレーンの免許さえ持っておかないと動物の移動もできないということです。実は玉かけという免許があるんです。玉かけとは、どういう風にロープをかければいいのか,という技術です。そういう免許すらないと水族館の仕事はできないんです。

玉掛けに関する知識(日本クレーン協会)
http://www.cranenet.or.jp/tisiki/tamagake.html

クレーンの知識(日本クレーン協会)
http://www.cranenet.or.jp/tisiki/crane.html

日本の水族館の大変なのは,実はひとりの学芸員が全部しないといけないということです。私は餌やりだけでいいや,ということではないということです。いろんな仕事を次々にやっていかないといけないということです。アメリカの水族館が面白いのは,いろんな仕事を全部するんじゃなくて棲み分けをしているんですね。私は研究だけ,飼育だけ,教育だけ,とね。欧米は分業されていて,日本は全部しないといけない。つまり,日本は職員が少ないんです。うちの施設で飼育の職員は40人居ます。同等の施設でアメリカ行くと200人居るんです。それにボランティア登録の人が800人居る。1000人体制です。それだけマンパワーが違うと職員が仕事しないといけないということです。ある時アメリカの水族館でリストラの風がふいて,日本は少ない人数で出来て居るんだ,と視察に来た方が居る。案内しながら,説明し終わったら最後に「マネできない。アンビリーバブルだ。」といって帰って行きました。日本の学芸員は雑芸員と言われるくらい,エキスパートでいろんなことができないといけないんです。飼育も,展示も分かる,すべてのことに精通した学芸員を要求されるわけです。学芸員が居れば博物館登録できると言われましたが,ちょっと憂鬱になってきたと思います。

1時間たちましたので珈琲ブレイクで。

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