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テクニカルライティングとは?
パラグラフライティング


私は書籍を書くのが仕事ですが,文教大でテクニカルライティングの講義を持っている。
今日は,その資料を持ってきた。

テクニカルライティングと学校の作文との違いについてお話します。今の小中学校では記述文や何かの手順についてやっているところもあるようだが,多くは,夏休みの思い出や運動会,など,自分の気持ちを書くことが多い。

テクニカルライティングとは何か?技術的なことを書くのだと思われがたちだが,読者の目的に応じてわかりやすく表現するのがテクニカルライティング。「読者の目的に応じて」というのが大切。 

媒体はパソコンの商品の取り扱い説明書など多いが,中には,医療機器,エレベータの取扱説明書などもある。書籍,雑誌,雑誌はパソコン関係が多い。あと,セミナーのテキスト,オンラインヘルプ。 

最近は,紙媒体だけでははなくて,オンラインヘルプなどがありますね。コンピュータのマニュアルというと分厚い本をついていたが,今は,簡単な冊子が付いているだけで,あとはパソコンの中に入っている。htmでも書かれる。

インターネットのHPで操作方法,トラブル対処方法も含む。

テクニカルライティングの研修をやっている会がありまして。実践の発表会などを聞いても,最近のテーマは,オンラインヘルプをいかにわかりやすくするか,ということ。

テクニカルライティングと作文が違うのは,テクニカルライティングは,読者が一番大切。 書き手ではなく,読者中心で書くということが重要。書き手の気持ちよりは,読者がどう思うか,ということに焦点がある。読者の目的を満たすことが重要。

わからないからマニュアルを見るのであって,しかも,マニュアルを見たことによって,何かができるようにならなければならない。

読者を中心に考えなければならない。読者がどう思うかが大切。読者がわかるかどうか,これは,読者のことを知らなければできない。

作文の場合は,読者を意識しなくてもいい。誰に向けて書くのかが必ずしも明確でないのが作文。

読者や目的に応じて内容が異なる例を挙げましょう。

取り扱い説明書 
読者は,製品を購入した全部の人。初心者でも上級者でも対応できるように,すべての機能を網羅する必要がある。機能単位のリファレンスが一般的。具体的には,MS-Wordの取説の場合,メニューが多いので機能ごとに書かなければならない。たとえば,ファイルメニューなどメニュー単位で説明していく。大見出し(ファイル),中見出し(閉じる,開くなど)のリファレンス機能。

書籍
書籍は,普通,ユーザーを限定している。対象を分けている。初心者向けとか,知識の差によってレベルを分けると言うのは一般的。高齢者向け,子ども向け,などの年齢による分け方や,ビジネスマン向け,先生向けなど職種による分け方もある。 

初心者向けを例にすると,目的は,基本的な使い方がわかればいい。あるいは,利用頻度が高いものを抜粋する。機能単位でばらばらに説明しても,いつの段階に使えば初心者はいいかわからないので,作例つきの実習書形式で説明するのが多い。『お知らせを作成しよう』という例題があれば,「文字を入力する」,「文字を大きくする」というように手順に沿って教えていく。実習書は頭から順番に見ていくことを想定している。これに沿って学ぶと,基本的操作や使い方がマスターできる

上級者向けは,高度な機能や,難易度が高い機能を解説する。目的別のリファレンス形式がとられる。
例えば,上級者むけのMS-Wordの解説書であれば,「ファイルメニュー」で言えば,開くとか閉じるとか,それはどうでもいい。「WordからHTML保存する」みたいな機能を説明する。あと,「版の管理」とかね。これ便利なんですよ。皆さん使ってますか?印刷物には版があるように,変更を加えて版の管理をすると,第一版の段階に戻せたりできるんですね。

初心者向けは,頭から読むようになっていたが,上級者向けは,自分の知りたいところから読めばいい。マニュアルも同じ。想定する読者によって,読み方すら違ってくるということです。読者のの目的が違うと,マニュアルの書き方も変わってくる。

 

 

今お話したのは,見出しの構成の話。人が理解できるのは,3階層まで,これ以上深いとどこにいるかわからなくなってきます。2階層に収めるような努力をして欲しい。

中には製品が悪いのもありますが・・・そう,製品がよければ,マニュアルはわかりにくくなりません。

それと重要な要素に,検索性があります。マニュアルで一番大切なのは,検索性。上級者向けの書籍でもそうだが,読者は自分の知りたいところだけを探して読むわけですから,探せないとわかりにくいとなってしまう。文章自体わかりにくくなっていなくても,ユーザビリティテストをして,一番問題なのは,探し出せないと言うこと,文章自体は難しくなくても,探せないというだけで,わかりにくくなってしまう。。

それで重要なのが,さっき申し上げた見出しのレベル階層。検索を左右するのは,見出しのレベルです。2階層にするか1階層にするかで変わってくる。それと索引,見出しとは別に○○をするには,という索引を設ける場合もあります。

マニュアルの使い方は,本当に人によって差があります。実験したいんだけど,問題解決能力があるかないかによって違う。問題解決能力が無い人,マニュアルを使い慣れていない人に,マニュアルを与えて,何か課題をだすと,マニュアルをばらばら眺めて,目次も見ずに,そしていきなり始める場合が多い。

マニュアルを使い慣れている人は,まず目次を見てどんな構成になっているかを見る。索引をみて用語を見る。索引から探して行く。索引から調べられる人はかなり使い慣れている

話が変わりますが,学校で,マニュアルからいろんなことを調べることを始めたほうがいい。マニュアルがわかりにくいのも問題だが,わかりにくいマニュアルから,いかに目的を達成するのも重要になって行くと思う。

(プロジェクタで,書籍のページの画像を見せながら)
これは,書籍のページのレイアウト。私の著作ではないんですが。「一週間でマスターする○○」シリーズは,大見出しが曜日になっている。月曜日というレベルがあって,その下にステップがいくつかある,そこに,例えば,「お絵かきを楽しむ」と言うのがあって,その下に,「1.ファイルを開く,2.○○」という構成になっている。この構成はライターにまかされているので,私のはちょっと違いますが。

ページのレイアウトとして,一番上に,月曜日とか書いてある。これを柱という。これで,自分が今,どこにいるかわかる。

ページを開く前に,爪に引っ掛けるようにした見出し。これが,「爪見出し」。ページ番号がわかりやすいというのも重要。皆ページ番号で検索するから。こういうデザインが検索を左右させていてわかりやすさにとって重要。

これは「PC名人になろうレベル2」ですが,まず「声の伝言版(タイトル)」と,こういうふうになっている。次のページが漫画で,これから扱う機能の概念なんかについて書いてある。漫画の次が作り方,その下にメッセージを録音しようとか,メッセージを再生しようとか,書いてある。

声の伝言版
漫画
作り方
 1.メッセージを録音しよう
 2.メッセージを再生しよう
 3.・・・

これは,操作手順になっていて,画面が来て,という風になっている。操作手順が続いて,最後のページに「こんなにできたよ」と,子ども達が作った作品が載っている。子ども向けと言うことで,階層を深くせず,非常に単純化している。これはサウンドレコーダーで声を録音しようという部分になっているが,他の部分もも同じです。えーと他になにがあったかな。絵手紙をつくろうというのが一緒,タイトルがあって,漫画が来て,作り方が来て。構成が単純なほうが,子どもに安心感を与える。

紙面のレイアウトについてですが,見出しがあって,リードがあります。本文の前に,これから何をやるのか,ということを説明しているのがリードです。子ども向けなので,お兄さんが出てきて,対話形式で疑問に答えたりしている。

操作手順の説明が続いて,あとは,「録音が失敗した」というコラムがありまして,通常では必要の無い部分(失敗した,という例外の部分)が,オプションとしてある。情報に格差をつけるというのが重要で,同じトーンだと見逃しやすいです。知っておくとお得な情報とかをコラム形式にします。

初めにお見せした,書籍のページはとっても情報量が多い。これを子どもに見せたことがあるが,囲みの意味すら複雑で理解できないんですね。情報の格差について,読めば良いのか,飛ばして良いのか,大人はすぐにわかるが,子どもはそうでもないみたい。

あとは,ビジュアル表現について,画面の大きさなんかも重要。画面があれば,細かい説明をつけなくても,1,クリック,2ダブルクリックなんて書いてあればいい。これは,何も説明がついてませんが,赤い丸がついています。赤い丸がついていれば,子どもは大体クリックします。ダブルクリックのときだけ「ダブルクリックして」と書く。書かなくて言いことを削るのも重要

ぱっと見たときのわかりやすそうだな,というのは重要。文章よりもデザインが重要だったりする。

見出しの構成によって,デザインが変わります。見出しの階層が違うと,デザインが変わります。画面デザインは,ライターがラフを書く,ひとつのページにこれだけ書いてほしいと設定してプロのデザイナーに渡す。メーカーに持っていくときなんかは,ひとつだけではなくて,二つ書きます。こっちとこっちではどっちがいいでしょう?みたいに。大体,折衷案になることが多いんですが。

文章については,2通り以上に解釈できる文章はダメです。「他のところに作成した図形を移動します」って文章は,「他のところに作成した図形を」なのか,「他のところに移動します」なのか。

こういうのがなぜ駄目かと言えば,誤操作を招くからです。誤操作したとき,ファイルを消してしまったり,時間がかかりすぎてしまったりします。特に,ファイルが消えたり,コンピュータが壊れたりすると,賠償問題になる。

同じことをいろいろな言い方で表してはいけません。混乱を招きます。マニュアルと言うのは,あまり特殊な言葉を使わない。中学校の教科書程度。

テクニカルライティングは代名詞をあまり使いません。代名詞を使うと伝わったつもりでも伝わらないことが多い。やたら代名詞をつかっている人がいますが,きちんと言い換えをしましょう。

特に操作の対象になるものは,きちんと言い換えをする必要があります。読み違えによる誤操作の問題もあるが,代名詞が出てくると,前の文を読み返して理解する必要がありますから。相手にに何かやらせる文章は,何をどこに,などときちんと書くことが必要です。

あと,起承転結を書かないですね。これは悪い例ですが,PC用語が英語であることを説明するとき,1行目に「クリックとは・・・」だと,クリックをしっている人は読みません。探す人は,一番最初を読んで判断します。一番最後に読みたいものをもってくるのはだめです。文章に結論があっても,自分には必要が無い情報だと思わせると読んでもらえません。

一番言いたいことは,最初に持ってきます。ビジネス文章も同じで,一番言いたいことを最初に書きましょう。

テクに一番必要なのは,論理性,相手に必要十分な情報化,自分の言っていることに論理性があるかどうか。
 
テクニカルライティングで必要とされるのは,まず論理性。必要十分な情報を与えているかどうか,わかりやすい順番になっているかどうかということ。また,正しい文法も必要です。適切な言葉や言い回しであることと,難しい言葉を使わないことです。語彙は少ないんです。

取り扱い説明書ならここまででいいんですが,売り物であるなら,面白い必要がありますね。

そこで,リズム感と読者を引きつける力,表現力や演出力が必要になります。学生が文章を書くとこの辺のことを小手先で書いてきます。最初に会話文が入ってきて思わせぶりにしてみたり。それよりももっと論理力をつけてほしいですね。

テクニカルライティングはは,読み手を中心に考えます。その読み手が見てどう思うか,テクニカルライティングの細かい技術は本当にたくさんあるが,重要なのは,読み手を中心に考えると言うこと。

読み手のことを考えれば,書き方や書くべきことは自然に決まって行くと思います。


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