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テクニカルライティング

ライターさんというと文章を書く人で,たとえばスポーツライターの二宮清純さん。ファッション誌とかみるとファッションライター。コスメライターという化粧品専門のライターさんも居ます。テクニカルライターというのは技術的なことを説明するのが仕事です。どちらかというとコンピュータ関係のライターさんをテクニカルライターと呼ぶことが多いようですね。私もコンピュータ関係,マニュアルを作る仕事をしています。今日はテクニカルライティングについて皆さんにお話します。

ホームページをご覧いただけましたか。本日の内容ですが,3つ。まずテクニカルライティングとは何か,次にパラグラフライティングとは何か,最後に長文の構成ということでレポートをどう書いたらいいかという構成の建て方について。今日のセミナーを聞くと分かりやすく書くやり方がなんとなく分かって,レポートの組み立てもなんとなく分かるという感じです。HPに書きましたが理論は分かりやすくて「なるほど」と思うんですが,いざやってみると簡単ではないんですね。理論だけでは絶対に出来るようになりません。繰り返し試すことによって少しずつ自分のものに出来るのが「技術」だと考えています。

テクニカルライティングとは。技術的な内容を,読み手や目的に応じて,わかりやすく,正確に表現すること,を言います。

テクニカルライティングの媒体は

・取り扱い説明書
・書籍/雑誌
・オンラインヘルプ
・Web

毎日BizUpというサイトがあるんですが,これは入社1〜5年目のビジネスマンを対象にしたサイトです。最近,私はこのサイトでOfficeQ&Aの記事を書いています。

作文とテクニカルライティングはどこが違うか?

1.読み手が一番大切
2.読み手や目的によって,構成や書き方が異なる
3.文章以外の要素も大切
4.文章は単純明快であること
5.起承転結は使わない

では,ひとつひとつ説明していきます。

1.読み手が一番大切

ここにユーザーさんがいます。この人は「パソコンで年賀状を作れるらしいと聞いて,自分も年賀状を作りたい」というニーズがあるわけです。一方に,テクニカルライターがいます。この人はユーザーのニーズが分かったら,年賀状を作るにはどういう方法があるのか,どういう順序でやったら一番かっこいい年賀状が作れるかを調べて「インプット」します。情報を集めてきます。その中で,初心者向けの機能を選んで書いていきます。画面があったら分かりやすそうだなとか,引き出し線を入れたら分かりやすいだろうな,と考えながら作っていきます。そうやってできたものが「説明書」(アウトプット)です。これをユーザーさんが読むことによって,「なるほど年賀状はこう作るのか,やってみよう」と思い、実際にやれるようにするのがライターさんの仕事なんです。

大切なのはユーザーさんがもっているニーズにあわせて文章を作ることです。その文章をユーザーさんが読むことによってニーズを満たすというのがライターさんの仕事なわけです。「技術的な内容を,読み手や目的に応じて,わかりやすく,正確に表現すること」と書きましたが,実は「読み手」のことを一番に考えないといけません。

2.読み手や目的によって,構成や書き方が異なる

読み手や目的によって構成や書き方が異なる。みなさん大学でレポート書かれていると思うんですが,読み手のこと考えています?あんまりないですよね。文章には必ず読み手が決まっています。たとえば,通知文書。大学では休講通知やテストのお知らせですね。たとえば,こういうセミナーがありますというのもお知らせのひとつですね。単に情報伝達を目的にした文書。それとは別にパンフレットやダイレクトメールがあります。車や保険のダイレクトメールありますね。通知文書は情報伝達が目的。パンフレットは製品について理解してもらうのがひとつ,「この車いいなー」「この洋服いいなー」と思わせないといけない。パンフレットは白黒じゃなくて,カッコイイデザインのパンフレットじゃないとお客さんはその気になりませんね。だから,読み手によって書き方や構成が変わってくるんですね。

説明書もいろいろあります。Wordを例にして説明します。まず,ソフトウェアに添付してくるマニュアルは初心者から熟練者まで様々な読み手がいます。マニュアルはすべての機能を説明しないといけません。だから内容も全機能を網羅しないといけません。「この機能あんまり使う人居ないから説明しなくていいや」ではいけません。機能単位に説明することが多いです。これだと漏れがありません。

一方で,初心者向けの書籍。読み手は初心者です。マニュアルと違って,書籍では全機能を網羅しなくてもかまいません。Wordだと初心者が使う機能ってだいたい2割くらいなんですって。内容は基本的な機能や,利用頻度が高い機能だけ抜粋してあげるんですね。ただし,相手は初心者ですから説明なしに専門用語を使ってはいけないんです。「ダイアログ」「ウィザード」「プロパティ」といった用語をじゃんじゃん使っても分からないですね。そういった用語は説明なしに使ってはいけません。次に構成例。ファイルを閉じるとか,開く,新規作成は分かるけれど,お知らせを作るのに何をどの順番で使うか分かりません。初心者はだいたいその手順が分かりません。「お知らせを作りましょう」というテーマを決めて,その作り方を順番に説明してあげる。その通りにやるとお知らせが出来るようになる。お知らせを作りながらWordの使い方を学んでいけるという方法をとります。実際の操作方法の順番で書いてあげるという構成例が非常に多いです。

上級者向けになるとどうなるか。目的は,高度な使い方,もっと便利な使い方を知りたい,分かりたいというのが目的です。内容は難易度の高い機能をもってきます。専門用語も特に断りなく使っても大丈夫です。構成例も,年賀状やお知らせを作ろう,ではなく,ある機能の使い方をダイレクトに知りたいので,「文章内の書式を統一するには」とか「差し込み印刷を行うには」というように,目的がかなり明確な「〜するには」という構成にします。

同じWordというソフトでも,ソフトウェアに添付されるマニュアルと,初心者向けの解説書,上級者の場合。相手が違うと構成の建て方がまったく違ってくるわけですね。使う言葉も当然違ってくる。

「ライターになりたい」「どうすれば文章がうまくなるでしょう?」っていう相談をよく受けるんです。プロとしてやっていきたいなら,文書のうまい下手より相手にあわせた構成をたてられることが出来るかどうかですね。それが出来るかどうかがプロとしての力量を決めると思います。

3.文章以外の要素も大切

見出し構成。第1章というのがレベル1。1−1,1−2というのがレベル2。1−1−1,1−1−2というのがレベル3。この例だと3階層ということですね。これが浅すぎても,深すぎても分からなくなります。5階層になったら「いったい私はどこにいるの!?」となります。あるいは浅すぎても情報を探しにくくなります。

検索性。ふだん取扱説明書を読んでいる人います?分からないことがあったら携帯電話のマニュアルを読む人?いますね。「これ知りたいな」と探しますね。探せないという経験がある人?いますね。コンピュータのマニュアルもそうですが,一番の不満は「知りたいことが探せない」ということですね。今そんなにひどい文章はないんです。でも,知りたいことが探せない,というのが一番大きいです。私は実際に実験したことがあって,初心者の人を呼んで,「ではこれをセッティングしてください」という実験をしたことがあります。初心者の人にマニュアルを使ってもらうんですが,人それぞれなんです。目次から探す人,索引をいきなり見て探す人,目次も索引も見ないで本をバラバラバラとめくる人,が居るんですね。どの方法をとっても,情報を検索しやすいように工夫します。目次に入れる見出しレベル。見出しはできるだけ目次に載せたほうがいいんですよ。先ほどの例だと3階層。3階層全部載せると目次のページが増えすぎてしまう。それはそれで探しにくい。索引にも,機能別索引と,「○○をするには」という目的別索引があります。

ページのデザインも検索性に影響します。「1−1×××」という見出し,「柱」,「ツメ見出し」,「ノンブル(ページ番号)」があります。実はこうした情報を元に人は検索しているんですね。たとえば,ページを繰ってツメ見出しで探すのか,見出しで探すのか,目次からページ番号で探すのかというのは違いがあるんですね。そのときにツメ見出しが分かりにくかったり,見出しが小さくて見にくかったりすると探せないことがあるわけです。ですからこのページデザインというのは情報を探す上でとても大切なんです。

紙面レイアウト。リードというのは見出しの簡単な説明文です。操作の説明や,操作内に含めることができない注意書きの「コラム」などをどう配置するかも読みやすさに大変影響します。文字サイズ,フォント,行間も大切ですね。今シルバー世代向けのPC本があるんですが「55歳以上」とか「60歳以上」とか限定があるんですね。そういうのは文字サイズがけっこう大きくて,書体も明朝ではなくてゴシック。文字サイズが大きくなると,ライターにとってはその分,書ける文章量が少なくなるから大変なんです。こうした要素すべてでもって,分かりやすい,わかりにくい,が決まるんです。だから工夫することが非常におもしろいんですね。

4.文章は単純明快であること

文書は単純明快であること。いくつかあるんですが,まず読み手が誤解するよな文章は絶対にだめですね。たとえば,

「新しい」が「事業部」にかかっているのか,「企画」にかかっているのか分かりませんね。企画にかけたいなら,「事業部の新しい企画は」と書かないといけませんね。修飾語は被修飾語の近くに持ってくるというのは基本。一通りの解釈しかできない文章にしないといけません。

また,次のように読み手に負担を強いる文章もだめです。

え?と思ってもう1回読み直しますね。2回読まないと理解できない文章はだめです。

どうして,こんなにわかりにくいかというと,改善前は2つのことを無理矢理1つの文章に入れ込んでいるからなんです。構造が複雑な文章はだめです。代名詞が多いのもだめです。「この手のマークは…」なら分かりますが「これは…」と省略されると分からない。

5.起承転結は使わない

悪い例を書いてみました。読み手に「パソコン用語が英語である」ということを理解してもらうための文章です。

一文も短いし分かりやすいですね。でもこれ,読み手に伝えたいことを一番最後に書いてある。書き手の伝えたいことが最後にならないと分からない。これがマニュアルに書いてあるとします。そうしたら「これはクリックの説明か」と思って読み飛ばしてしまう。知っていることは読みません。知りたいことを調べるために読むんです。一番伝えたかったことが読まれなくなる。

これを修正したのが次の文章です。

テクニカルライティングは起承転結は使わないんです。これがエッセイだとか小説は違いますよ。エッセイで結論がオチが最初に来たらおもしろくないですからね。

さて,テクニカルライティングにはどんな能力が必要なんでしょう。私は一番大切なのは「1.論理性」だと思っています。必要十分な情報を,わかりやすい順序で並べられる能力です。さっきWordの例があったでしょう。相手にとって何が必要なのか,初心者には何が必要なのかを取り出すことが出来る。それを相手が理解しやすい順番に構成をたてることができること。次に,構成をたてたら,それを「2.正しい文法と・適切な言い回しで表現できること」です。次に,売り物の文書を書きたいのなら,「3.リズム感」は必要です。読みやすいリズムってありますよね。さらに,「4.読み手を引きつける力」です。以上がライターとして必要な能力ですが,ビジネスライティングだったら,2番目までで十分だと思います。

さて,適用範囲。実は,テクニカルライティングの手法は情報伝達のいろいろな場面で役に立ちます。授業のレポート,社内外の通達文書,仕事の企画書・報告書,皆さんがふだんつかっているメール,プレゼンテーションの場でも役に立ちます。ぜひ,テクニカルライティングの手法をマスターしていただきたいと思います。

文章を書くときは,次のことに気をつけてください。

・この文章の読み手は誰なのか?
・この文章の目的は何なのか?
・何を伝えなければいけないのか?

レポートを書くとき「これ,誰が読むのかな?」って意識しないでしょう。意識してくださいね。皆さん就職活動してますか。履歴書やエントリーシート書くでしょ。それは人事の人が読むものですから,人事の人に読んでどう思ってほしいのか,どう理解してほしいのかを考えないといけません。

文章の目的は何なのか。何を伝えないといけないのか。私も実際に毎日原稿書いていますが,いつもいつもサクサク書けるわけではないんです。うまくいかないことも多々あるんです。「うまく表現できない!わかりにくい!」と。そのとき考えるのは読み手が誰か,目的が何か,に戻るんです。原点に戻って「これは初心者向け。初心者はどんな情報を必要としているのだろう?何ができるようになりたいんだろう?」と考えます。そうすると思いつくことがあるんです。ここに是非立ち戻って考えていただきたいと思います。


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