自分の教育実践を研究として成立させる方法について学ぶ会
トップ > 公開検討会1 > 公開検討会 1 皆川 交流学習と連動させたキーボード学習の効果ということで発表させていただきます。キーボード島のトップ画面。1,2年生は希望者。3年生以上は全員にIDを配布して取り組ませています。今日は3年生の実践事例の紹介をします。 キーボード入力学習を進める上での課題について。昨年の11月の沖縄の協議会で富山の渡辺先生が発表された内容。「取り組み日数を増やし継続的に学習を続けることが大事だ」,と報告されています。継続的に,というのが大事だと私も感じています。昨年度キーボード島のモニタ校として参加させていただきました。講師の先生からの報告によれば途中で入力学習にあきたり,あきらめる子が居るという話をきいた。なんとかしないといけないということで,キーボード入力学習と並行して,キーボード入力を必要とする学習を学習に意図的に埋め込もうと思いました。そこで,電子掲示板を活用しようとしました。
9月1日のキーボード島の正式運用とあわせてキーボード入力学習を始めました。これは3年生の子供たちの様子。教室にPCを3台置いた。休み時間や放課後に自由に学習していた。ほとんど初めてという体験なので,(キーボード入力学習は)ゼロから始まったと考えてもいいと思います。今回の交流を11月から。同じ県内の小学校。主な交流手段は電子掲示板。交流初期に2回のテレビ会議を行っています。交流のときの電子掲示板への投稿数の推移です。テレビ会議のときに多く,その後どんどん減っていますが,2学期の間ずっと子供たちのやりとりがあることが分かります。 結果と考察。試合数と上達度について。成績上位と下位のこども2名ずつとりあげて分析。A児が7級,B児が9級,C児が24級,D児が26級。交流開始前の推移。上が試合数の推移。下が上達度の推移。試合数を見ますと,下位の子供は1週間たつとほとんど試合をしていないことが分かる。上位の子は試合数こそ減っていますが,10月下旬まで続けていることが分かります。 交流開始後のグラフ。多少ばらつきはありますが,上位の子も,下位の子も全体的に試合数が増えていると見ることが出来ます。特にC児が緑,D児がオレンジで示してありますが,この子たちの試合数が相当増えている。それに連動して上達度もぐんとのびている。D児は試合数と上達度が一致していないところがあります。そこには自分の手だてに問題があったのかな,と反省しているところです。 交流前後の平均試合数と,平均到達級の推移。一日あたりの試合数が倍増していることが分かります。キーボード入力学習に対する児童の意識調査。何が役に立ったかという問に,「(交流相手校との)交流が楽しくなった」とある。相手にじぶんの気持ちを伝えたいという動機や切実感がキーボード入力学習に取り組ませるきっかけになったと思う。これが12月26日のグラフ。休みに入ってからも家庭や公民館でやっている。平均すると6.07級となっています。 結論です。キーボード入力学習を進めるには,電子掲示板と交流をくみあわせると次の点で良い。 (1)交流学習が刺激になって,キーボード入力学習に意欲的・継続的に取り組むようになる。 以上で報告を終わります。 山内 前提としてお話したいこと。私個人的もこういうことに興味があって,1996年に「百校プロジェクト」で大阪にある小学校に入って交流学習と操作的学習の関係を調べたので,経験的な感じではこの結論は妥当です。ここで求められている役割は,経験ではなく,研究として整合性をもって主張できているか。個人的にはこれはあっていると思うけど,ただ,それが言えているのかという視点で。 まず研究の目的。研究の形にしたときに一番最初にみられるのは目的のところです。配られたレジュメには「キーボード入力学習を進める際に電子掲示板を活用した交流学習を連動させた実践を行い,その効果を考察する」とある。ここの部分ですが,わかりにくいような気がするんですね。研究としては効果を考察するんだけど,何の効果かがよく分からない。実践の効果っていうけど,実践にはいろんな効果がある。実践のどこを切り取ってどういう記述をしたいのか,というのが見えにくい。堀田先生が「研究助成を取るには」と言いましたが,そこがクリアじゃないと助成はとりにくい。何をやりたいのって言ったときに3,4行で「この人はすごいことやろうとしているんだ」というのがはっきり記述できるかどうかが重要だと思う。もうちょっと書き方があると思う。 堀田 山内 要するに効果ってのは,交流学習を組み込むと,交流学習を組み込まない場合に比べてキーボード入力の学習がよくなるということですね。だとすると次に問題になるのは,このデータで果たしてそれが言えるのかということです。非常に難しい問題で,厳密にいうと我々が言っていることも怪しいときがある。完璧な指摘になるか分かりませんが,今,皆川先生の発表では結論が2つある。交流学習が刺激となりキーボード学習に意欲的・継続的に取り組む。2つめ,楽しみながらキーボード入力学習に取り組むようになる,とある。 ひとつめ。「交流学習が刺激となって…」,というところで表されているのは図9の交流前よりも後の方が平均試合数と平均到達級数があがっているということですね。問題は,このデータでそれが本当に排他的に言えるか。このデータだけで言えるか。意地悪い言い方をしますが,たまたまおうちでコンピュータ買った子ばかりで,おうちでガーッとやったから面白くなってのびたんじゃないか,とかね。いろんな仮説が考えられるわけですね。その仮説に対して「いや,そうじゃないんです」と防衛できるだけの情報を出す必要があると思うんです。交流学習が刺激となる,とあるので,交流によって図にあるような伸びが出ていることを説得的に主張するか。いずれにせよ,我々職業的に研究している人でも因果関係を示すのは難しいです。あることが原因でこういう結果が出た,というのは直感では分かる。だけどそれを立証しなさいと言われるとものすごく困っちゃう。教育実践は授業をしているから,子供が変わるってときにはものすごいいろんな要因で変わりますね。お父さん,お母さんがケンカしたら子供の調子って悪かったりする。何によって学校でのパフォーマンスが変わるか分からない。本当にいろんな要因があって子供たちは動いている。この原因がある結果に対して効果があるというのを示すのは難しいんです。私がおすすめするのは,難しいことはやらないほうがいい。難しいこといわないで,言えることだけ言う。いい実践ならそこだけ切り出しても十分いいことは伝わる。こういう形でつながっている,因果関係がある,と示すだけでいいと思う。 そういった結論を出すときはいろんな方法を組みあわせたほうがいい。交流前より後が伸びたというだけではプロセスがよくわかりません。たとえば,「電子掲示板ではD君はメッセージを送ろうと思ったら3行しか書いていなくて,それが失敗の原因になって練習を始めたんです」というような質的な情報を組みあわせると説得力が出てくる。必ずしもアンケートや分析に任せる必要はなくて,使えるデータはなんでも使ったらいい。シンプルなデータでいいんです。AというデータとBというデータを組みあわせたら実践が浮かび上がってくるような形にしたらいい。質的研究ではトライアンギュレーションと言います。 堀田 皆川 堀田 |