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学び続ける組織をつくれ・学習論と経営論の100年

 

堀田
じゃ始めたいと思います。今日の教育情報システム設計論、中原先生に来ていただきました。メディア教育開発センターの助手。まだ20代。教育、学習、そのためのeラーニングシステム、コミュニティー設計がご専門。CSCWって分かるかな。共同作業のためのコンピュータシステム。それの応用でCSCLってのがある。学習のためのネットワークシステム、グループウェアを考え、色々研究している。

堀田
この授業ではeラーニング白書をずっと読んでる。eラーニングは仕組みだけではうまくいかないし、仕組みもないとうまくいかない。それを支えるのは組織論。今日は、学習論と組織論を100年分ひもとく。今から17時、17時半あたりまで。ご本人、僕よく知っているのでラフにやっている。質問のある人はわって入ったほうが喜びます。「それってどうなんですか?」みたいに聞いてほしい。1回しかないチャンスなので、このチャンスに学びましょう。

中原
メディア教育開発センターの中原です。今日は学習論と経営論。マネジメントと学習という話をしたい。もし分からないことがあったり、ちょっとどうもなというところは言ってほしい。途中で言っていただいたほうがありがたい。最後の方は発展中の論もあって僕も分からないので聞いてほしい。

中原
まず自己紹介。最近は、iii onlineにかかわる仕事をしている。東京大学の情報学環のバーチャル・ユニバーシティ。講義のビデオを見て、その後電子掲示板を見て課題を解く。2002年4月に始まって、今だいたいアクセス数が85万を超えている。利用者がのべ3万5000人くらい。皆さんもぜひ利用できるので、やってみてほしい。

中原
あと、個人的には携帯電話を使ってそういったネットワーク上の学習コミュニティの状況とか、個々人の学習の様子を学習者に情報提示する、というような研究をしている。電子掲示板の盛り上がりの様子、インタラクションの概況を携帯電話に送っている。この辺に関しては興味があったら聞いてください。

中原
今日の話なんですけれど、3部構成になっています。学習の話と、経営論の話をくっつける。まず学習の100年、経営の100年を紹介する。学習と経営は最近似通った話になってきている。2つの理論をくっつけて、今発展中のcommunity on practiceという話に。

中原
なんで学習とマネジメントに注目するか。たぶんみなさん少しeラーニングのことを考えれば分かる。学習を支えるような組織の問題は避けられない。教師の情報活用能力を高めるときにどうするか。教師と教師がどうインタラクションして高め合っていくかということを考えずに避けて通れない。会社でも事業おこして、成功する。成功した事業を次の世代に伝えなければいけないことが起きてくる。伝えるということは学習の話になる。組織を維持するのに学習の問題は避けて通れない。みなさん学部生なり院生かもしれない。学校にいても、就職しても進学しても、学習や組織の問題から逃れられない。そのとき、こういうこと知っているといいかもしれない。

中原
学習論なんですが、学習心理学を専門的にしている人はいますか?

堀田
いないですか。

中原
認知系、認知心理学とか。専門の方には常識かもしれないけれど、一番基本的なところから。学習論がなぜ100年かというと、歴史がそれだけしかないから。まず確認したいのは私もあなたも学習者ということ。ニンゲンは生まれながらにして学習者。食う、寝る、遊ぶ、は生理的欲求といわれる。知的好奇心というけど、ニンゲンは学ばずに生きていくことはできない。学習っていうと、経験を通しての知識技能の獲得とかいわれる。ただ、こうやって定義をみるだけだと自分とは遠いことに思える、と。学校とか勉強とかをみると学んでいるように見える。たとえば電話をかけるときに「もしもし」「もしもし?」というのも学習の結果。スキーやテニスができるようになるのも学習の結果。僕らは生まれた瞬間に学び続けることを宿命づけられている存在。受験が終わったら終わりではない。

中原
学校とか勉強が学習じゃなくて、人は学ぶことなしに生きていけない。僕らの行動はすべて学んだ結果。ところで身近な学習の問題なんですが、それを学問的にやってきたのは学習心理学。心理学ってたくさんあるわけです。社会心理学、老年心理学といったら老いるとか、死ぬことを考える学問。犯罪心理学っていったら、犯罪者の行動や嗜好を分析する。学習を対象にした心理学は学習心理学。

中原
学習心理学ってのはどういうことを研究するか。2つ側面がある。どうやって学んでいるか、どうやったらよりよく学べるのか、の2つです。前者が学習プロセスの解明。後者が解明された学習プロセスをどう学習に生かすか。学習心理学は密接に学校現場、教育システム、皆さんがeラーニング白書を読まれたそうですが、具体的な教育現場に影響を与えている。学習心理学でこういう流れがあるから、現場にこう生かされているという話をしたい。

中原
学習心理学の発展。ざっと4つぐらいに分けてみました。1900年代に初期記憶研究。1920年代に行動心理学。1970年に認知心理学。1990年代に状況的学習論という理論。こんな風に100年間に学習心理学は発展してきたと考えられる。

中原
初期記憶研究。エビングハウスの忘却実験。どのくらい覚えられるんですか、どのくらい忘れるんですか、という話。このオッサンはエビングハウス。無意味綴り、ランダムに並べられた数字なり文字なり。それをぱっと暗記させて、どのくらいで忘れていくかを明らかにした。時間と保持率。わずか数分で40%以下になってる。ニンゲンの記憶はものすごいもろいということを明らかにした。この辺は無意味な綴りを覚えるか忘れるかだから初歩的なところ。これが今から100年前。

中原
行動主義心理学。パブロフ。行動の変容を学習とした。覚える、覚えないということじゃない。行動が変容したら学習だ、と。パブロフの犬。食べ物おいてチーンとならす。犬はよだれをたらす。これを何回も繰り返すと、食べ物おかなくてチーンとならすだけでよだれが出ると。ベルとよだれがくっついた。行動の変容が起きた。こうしたことを学習と考えたのはパブロフ。

中原
パブロフの次には、スキナーって人が出てきた。スキナーはあることがきっかけになってプログラム学習というのをつくった。この人は娘さんがいて、授業参観に行った。その授業がものすごくひどかったみたいです。今でいう学級崩壊状態だったそうです。スキナーは「この授業は、ネズミの訓練以下だ!」って怒ったという逸話が伝えられています。で、学習の方法つくっちゃえ、とプログラム学習の原理を助手さんと一緒につくった。学習をよく起こすためにはいくつかの原理原則があるってことを明らかにした。学習を行うときには最後、学習の結果を明らかにする。それは行動として記述する。そのゴールまでをスモールステップに切っていく、と。その難しさが徐々にあがっていくようにする、と。学習者が課題を与えられて答えたときには即時のフィードバックをあげる、と。あっているならあっているという。間違ったら、どこが間違ったかをいう。時によっては報酬や罰を与えてもよい、と。

中原
これって1920年頃につくられたけど、eラーニングってのもこれでしょ。あるドキュメント読んで、問題に答えて、あってる、まちがってるの反応がある。プログラム学習ってのはeラーニングっぽい。公文も全く同じ原理でプログラムが作られてるんです。こないだシンガポールにいったら公文がはやっていた。日本は詰め込み教育がたたかれたから下火だったけど。スキナーさんが作ったプログラム学習の原理は今も連綿と受け継がれているということです。

中原
スキナーはプログラム学習をつくったら、だんだん何でもできると思い出した。そして「もし私に費用と機会を与えてくれたら、私の娘を総理でも大臣でもしてみせよう」と。もしゴールがあるなら、人の人生をどうにでもコントロールできるぞ、と。学習をコントロールできることを学習心理学において明らかにした。

堀田
できるかね?

中原
学習はコントロールできるかって話ですが。

堀田
学習者は100%制御可能か、ってことだよね。そこに別のものがあるんだよね。

中原
さっきの話でいうなら、3桁の足し算・かけ算ならプログラムを考えるのは、簡単かもしれませんね。でも、博士にしようとかいうと難しい話。彼が言いたかったことは、学習はコントロール可能なんだ、ということでしょうね。

中原
1920年、30年代。日本に普及して、心理学=スキナーリアンという話になった。一方でむずむずしていた人がいた。パブロフのところでみせた行動の変容が学習だよ、と。スキナーも行動の変容の話をした。ところが目を付けていないところがあった。行動がかえられることは分かったけど、頭のことは誰も説明していなかった。頭ん中はブラックボックスだよ、と。報酬を与えれば、行動が変わるけど、頭ん中ではどういう働きを仕組みで物事ができたり、分かるようになるかは誰も答えなかった。じゃ、いったいこの中では何が起こっているかを主張した人がいた。

中原
このころになってくると、1960年代後半〜1970年代くらい。頭の中を研
究する一派。認知心理学と呼ばれている。ブラックボックス、わからなかったことを解明しよう、と。分かろうとすることの頭をモデル化しよう、と。これも膨大な研究群があるので1つだけ紹介。アトキンソンとシフリン。彼らは頭ってのはコンピュータみたいなもんだよと。入力して、簡易登録機みたいなのがあって、短期記憶ってのがあって、長くリハーサルするとハードディスクに入る、と。私らの頭はコンピュータと同じようにモデルが作れる、と。

堀田
1971年のコンピュータってのはノイマン型。AIが出てきはじめてるよね。

中原
AI研究とほとんど同時に進行したところがありますね。

堀田
LTSの中をどう推論するかってのがprlogとかlispとか。

中原
ここでたぶん覚えなきゃならんのは、頭をコンピュータにみたてて作っていけば、頭ん中は分かるかもしれないと考えた。

堀田
それはプログラマブルってことかな。

中原
スキナー的なところで出てきた、学習をコントロールするより、サイエンスとして頭の中で起こっていることを明らかにしたかったんだと思う。今も連綿と受け継がれている。先ほどの行動主義もこれが出てきたからなくなったわけじゃない。行動主義の心理学をやっている方はたくさんいます。

堀田
学校なんて典型だしね。

中原
認知心理学でわかったことはたくさんある。短期記憶ってのは一度に何個はいるかは、マジカルナンバー7プラマイ2っていいます。あと、リハーサルすれば、記憶が促進できる、と。マトマリ化すると覚えられる。受験のときの年号覚えみたいな。マトマリにすると覚えられる。あとは、356897みたいな無意味つづりより、1192作ろうみたいに、意味があるほうが覚えやすい。記憶を促進するにはいろんな方略があるということがこの時代に出された。記憶術ってのはこれを応用したようなもん。うちのカミサンが中学生のときつかってた。自分の声をとって、それをヘッドセットに流す。それは結局リハーサル促進ツールですよね、効果があるかは知らないですが。

堀田
それでNHKで今働いてる。

中原
で、実験してみようと。マジカルナンバーがあったけど、ニンゲンがぱっと一瞬みせられたときに何個数字覚えられるか。じゃ仲林さんにやってもらおう。

#仲林。だいたい5つ前後まで覚えられる。

中原
今までやってきたけど、8つくらいが限界です。学習の話を70年くらい続けてきた。

牧野
7つってのはいくつから?(どのような根拠から7つなのか?)

中原
ミラーの実験。統計にかけると5〜9に入る。7がピークになる。

堀田
マジカルナンバー7というタイトルを出した。かっこいいよね。

中原
興味があったらマジカルナンバーってgoogleに入れると出てくる。

堀田
その後の論文で、単語も。まとまりが7なんだと言ってる。

中原
今はしょったところがある。たとえば14142で区切って、1356と考えると2つになる。

堀田
東京でチャンネルがうつる、4、6、8、10とかになる。それは固まりでいうとチャンネルのかたまりになる。桁と一致するのではなくて、固まりで7覚えられるということが出ている。そのときの単位をチャンクといってる。意味のまとまり。

中原
これで14で意味もある言葉だとすると、これを1チャンク。そうすると141421356は5チャンクになる、と。意味のまとまりを大きくすると覚えられる範囲は広がる、と。

中原
中間でまとめると、初期記憶研究と行動主義、認知心理の話をした。ここで考えていただきたいのは、学習というのは頭の中にすべてをためることだ、というふうに両方とも考えている。初期記憶は頭の中、行動主義は刺激と行動の変容が頭の中に蓄積される、と。認知心理は頭をコンピュータにたとえて、ためられる記憶のスペースを考えて、長期記憶があると考えられる。学習っていうのはアタマの中に何かをためて、やっていくことだと考えていた。だから学習は個人で行うことになる。これ以降の心理学はだんたん変わっていく。これまでの心理学はこういう前提で動いていたことを覚えておいてほしい。

中原
それまでの学習心理学では知識は貨幣みたいなもんだ、と。だから個人は貨幣をためる容器である、と。貨幣をいれるのは学校でいえば教師。こういう考え方を「知識伝達モデル」と呼んでいます。知識は学習者の頭の中に知識をためていくことだ、と。これはある先生が作ったモデル。教師が有能で、知識をぼこぼこと学習者の頭に送り込む。これはパウロ=フレイレという教育学者が、銀行にたとえた。

中原
ここでビデオを見てほしい。今から見せるビデオってのがすべて学習心理学の結果出てきたというわけじゃないんだけど、ある側面は影響を受けているといえる。1970年代の教育を表している。

#ビデオみる

堀田
スプートニクショックの頃。今40歳くらいの人が子供のころの話。

#知識つめこみ教育。知識偏重主義。受験戦争の低年齢化。毎週の中学受験模試。

中原
この時代ってのは今みてきた通り高度経済成長。教育内容が難しくなって、幅広くなっていった。行動経済成長が終わって低成長になると学歴信仰が出てきて「大人になったらね」という発言が出る時代。それはすべてとはいわないけど、さきほどの学習心理学の延長に出てくること。頭に知識をためることを学習というなら、知識をためた人がいい資本をもって、いい職につく、という流れ。こういう前提が突き進んでゆきすぎればこうなるという例。もう1個あるのは、そもそも詰め込み教育でつめこめたのかな、という話がある。さっきの子供が暗記していた話で、それどのくらい覚えているのかな、と。それを本当に必要な場面で使えているのかな、というのがある。つめこみ教育が悪いというのもあるし、つめこみ教育でつめこめたのか、というのがある。

中原
学習心理学は転機をむかえる。今までは知識をためるのが学習だ、という話だったけれど、教育の現場から一歩出て知的というのは何かを考えてみようよ、という風に転換期が現れます。

中原
学校の外の知的活動として、生放送のテレビスタッフ。僕はある時期NHKの観察とか見学をさせてもらった。NHKで生放送がどう実行されるか、どういうふうにみんなが動いているか。彼らは別に生放送やるためにはかくかくしかじかの手順でやってというような知識を全部頭にためてやってるわけじゃない。生放送のスタッフは分担があってそれぞれに協調しながらやっている。インカムレシーバーってのがあるんだけど、ディレクターとかスタッフが常にコミュニケーションをとっている。これはどのくらいの人が関わっているかの図。音声、ビデオエンジニア、CP、効果、電話機、カメラ3台、フロアディレクター。たくさんの人が協調しながら知的活動をしている。注目したいのは、ひとりがすべて知っているわけではないし、すべてやっているわけではない。ここに書きましたけれど他者のコミュニケーションを積極的に活用している、と。すべての知識をひとりが持っているわけではなくて、知識や専門性を相互に補いながらやってる。

中原
次はバーテンのハナシ。バーテンの仕事で一番難しいのはお客と話ながら飲み物を作ること。オーダー取りながら、話しながら、作っている。

堀田
9人までは大丈夫だとか。

中原
5人来ると辛いな、とか。マティーニ頼んだのにやめ、とか言われるわけ。それは復唱したりだとか、紙に書くのは反則。レシピ見るのはアマだと思われるからパス。レシピや復唱や紙ではなくて、実はバーテンはバーテンぽい仕事をしてる。頼まれたときに使うグラスを置いておく。モノを置いていくことで外部記憶を有効に使う。あとは仲間のバーテンやホール係もちゃんと覚えている。バーテンだけが覚えてるんじゃなくて、それ違うよって目の合図したりしてる。ここで何を言いたいかっていうと、バーテンは知的な活動してるんだけど、複雑な認知のプロセスがある。それは頭の中に全部たくわえたりとか、紙に書くんじゃなくて、道具や近くの仲間とコミュニケーションしながらやってると。

中原
では、何が違うのかというと、従来の学習は個人の頭に着目している。だけど僕らの普段の活動はそれとちょっと違う。人は道具や人とコミュニケーションしながら、補いあいながらチームワークで学んだりしながら知的活動をしている。それまでの心理学ってのはガラっと変わるきっかけたとなった。人は孤独に学習して有能になるのではない、ということですね。

中原
で、1990年代、状況的学習論っていうセオリーがあらわれる。単純な話で、ニンゲンの活動は他者とか道具に支えられている。そのための場なり、状況なり、関係を作り出すわけです。人が学習するように有効に道具を置いたり、人との配置を考えるわけです。

中原
僕がさっき自分の専門といったCSCLはコンピュータを利用してこういう場を作れないかな、という話です。コンピュータを使うことでコラボレートしたりコミュニケーションします。

中原
これはカリフォルニアのバークリー校でマーシャ・リンがやってるWISEプロジェクト。Webを用いて化学を勉強する。素材をセンサーで測定してコンピュータに出して他者と見合いながら仮説を検証しながら学ぶ、というものです。

#ビデオ

中原
これと同じようなことはUCバークリーでなくても日本でも行われている。日本では情報教育の文脈で。科学教育ってのはないですかね?

堀田
CSCLやっている人は科学が多いよね。

中原
だいたいここまでが学習の話でした。初期記憶研究から、行動主義、認知心理。最後は状況主義。それはコンピュータネットワークを活用して他者と道具を使う場を作ろうという教育にかわってきている。

堀田
いったん休憩にします。

#公文式の話
#状況論の人はどう思ってるか

堀田
自分もやったてから分かる。副作用として有能感もあれば、慢心作用にもなったりする。


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