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学び続ける組織をつくれ・学習論と経営論の100年

 

堀田
じゃ、最後の第三部に入ります。

中原
第三部は共同体。ここからは去年出た理論の話をするんで、僕も模索中です。今までやってきたところをおさらいすると、要は経営学でいえば知識を創造することに注目が集まってる。その企業にしか出来ないこと、ほかにはまねのできないものをどんどん生み出したり知識を作っていかなきゃいけない話になってる。進化が早い知識社会になってるので、人はますます専門的知識を身につけなきゃいけないし、タコツボ化もすすむからコラボレーションしなきゃいけない。

中原
今、分かっていることは、知識創造プロセスがどうも重要だったこと。次に、求められていることは、知識変換が起こる場を具体的にどうデザインすればいいか、を明らかにすること。人が有能になれて、協力しあえて、それによって新たな知識を作っていく場をどうデザインするか、ということを考える必要があります。

中原
そこで注目する理論にエティエンヌ・ウェンガー。このおじさんは学習研究者。さっきの状況的学習論の基礎を作った。この人が学習を放って経営のコンサルタントに行った。彼はそこに学習理論で得た知見をどんどん経営に生かしている。community of practice=COP。実践の共同体なんだということを主張した。

中原
COPの定義。第一に、知識や専門性をもっている人がまずいるということ。次に、一緒に取り組めるような実践があるということ。次に、相互作用があるということ。COPのイメージを理解するキーワードは、相互貢献だと僕は思います。

中原
COPは既に企業の中にあるのかもしれない。それを見つけだして育てていくことが大事かもしれない。メリットとして、専門性が高まったり、イノベーションが生まれるかもしれない。

ビデオ見てもらいます。

バックマン・ラボラトリーズ

#国境や専門性、部署に関係なくフォーラムで情報発信。
#個人の問題解決に各人の専門性をもちよってプロジェクトで開発
#仲間に認められることが働きがい

中原
…というようなことがCOPの具体的事例としてあげられます。COPの定義を復習すると、みんなが専門性や知識を持っている、と。それぞれ違う知識でもいい。そこに一緒に取り組める実践なり問題が出てくる。さっきならデンプンの話。彼らが知識や専門性をもちよって作業し合う。ときには葛藤が生まれるけど、それをおそれずひるまずやって、みんなにとっていい、相互に貢献し合うことをする。イノベーションが生まれる。イノベーションは個人に戻りますから、個人の専門性が伸びる、と。COPってのは今まで考えもしなかった製品や研究がすすむ。自分ってできるんじゃないかって思ったり、貢献に対して報酬が出る。アメリカは一つの企業に勤めるなんて考えないから、そこで得た知識が転職しても役立つ。個人と全体の利益が両立できる。さっきのバックマン・ラボラトリーズの例はこんな感じ。なんかのイノベーションが生まれた、と。

中原
今みたいなのが実践の共同体だと考えられます。彼が主張するにはこういうのを企業にたくさん作っていく。あるいはこういうポテンシャルをもった集団を生かしていけばいい。

中原
次に、実践共同体は企業の中の部局とどう違うかを見ていきます。通常の部局では、部長や課長が居て、責任の体系が決まっていたりする。だけど実践共同体は貢献度が高ければ高いほどみんなに尊敬される。ひとりでやったより、複数の人でやったイノベーションの方が価値が高い。

中原
実践共同体とプロジェクトはどう違うか。プロジェクトはタスクありき。実践共同体は「もうそろそろいいかな」と思ったら終わってしまう。はじまりかたもどちらかというと問題が先にあって、問題解決しようって感じで始まる。それが今までのプロジェクトという組織論とは違う。

中原
仲間内グループとどう違うか。実践共同体はある知識や専門性を持っているということです。輪郭ぐらいはみえたほうがいい。知識や専門性をもって一緒に取り組める何かがなければダメだよという話です。

中原
よく共同体っていうと、いろんなイメージがあると思う。ウェンガーが言いたいコミュニティは、仲良しグループじゃないし、IT使ってフォーラムを作ればいいってもんじゃない。

中原
バックマンラボラトリーの例を出しましたけれど、こういう流れってのは日本の企業にもどんどん出てきていて実践共同体を作ろうという話が出てきている。知識創造は重要ってことが分かるけど、その後に知識創造の方法が分からなくて、実践共同体みたいな話は訴求力を持っている。

中原
実践共同体の作り方としてウェンガーはいろいろな場所でいろんなことを言っているんだけれども、僕なりに4つのプロセスでまとめてみたい。共同体は、4つぐらいの発展のプロセスをもつかもしれない。そのプロセスごとにモデレーターという人々が重要な位置をしめている。あとはITツールもあるんだけど、モデレーターとかコミュニティウェアに着目して共同体の発展を述べたい。

中原
まず、共同体が生まれるきっかけになるのは個人がどういう知識をもっているかを見極めなきゃいけない。一緒に取り組める実践をモデレーターが見極めなきゃいけない。

中原
次に、何を一緒に取り組むかを考える。メンバーはメンバーで「こいつとはどこでコラボできるかなー、無理そうかなー、みんなで何ができるかなー」と合意を形成する必要がある。COPを中心的にまわす人は、コミュニティのゴールに何を設定したらいいだろう、一緒に取り組めることは何だろうって考える。こうして共同体がだんだんおぼろげながら出てきて、メンバーがつながると次にモデレーターはそこで飛び交う知識を注意深く見ながら、ある知識をもちあげたり、記録をとる。アーカイブやモニタリング。あとは、コミュニティが盛り上がると、後から入ってくるメンバーのために新規参入者を受け入れてあげる。それから盛り上がると、ほかの部署と組むようなことも考えていく。

中原
こういったことが起きると、実践の結果イノベーションが起きてくる。よいものに関しては共同体の外に出していって企業の中に知識が流通する必要がある。もっともっと盛り上がると、ほかの部署に「うちのコミュニティこんなことしてるんですけど」とか「こっち来ませんか?」という勧誘が始まる。モデレーターはアライアンスをしなきゃいけなくなる。メンバーはメンバーで「もうオレはやってかれへんな」と思ったらやめるし、古参のメンバーには新規参入者を受け入れる、あるいはサクセスストーリーの語りやケアが起こってくるようになります。

中原
そういうふうに共同体をベースにしたような知識創造が行われるようになると、組織の中に無数の共同体がいくつも出来るようになる、と。労働者はいろんなところとかけもちになったりする。そうすると組織ってのは共同体の集まりになっていく。

中原
次にツールについてのハナシ。ウェンガーはITをそれほど重視しているわけじゃない。ただ、日本だと知識創造のためにITをドカンと投入して「効果がない」とかなったりするけど、そういう本末転倒的状態というか、ハコモノ的発想はやめた方がいい。

中原
めざすは、実践的ローテク志向。ローテクでクールなことをやったほうがいいんじゃないか。たいしたものがITのツールとして必要なわけじゃありません。COPみたいなのは、これを支えるITツールが必要なわけじゃなくて、既存の企業に仮想的にITツールを組み合わせることで成り立つ。

中原
とはいえ、彼が必要だと述べているものには、こんなものがある。彼は、コミュニティウェアに関するシェアウェアレポートもまとめている。

中原
結論。これに結論にしていいのかという話だけど、実践共同体ってのはうまく機能していく場合には、企業の中にイノベーションが生まれて、イノベーションから個人に知識や専門性が生じる。実践共同体をどんどん拡張してアライアンスを結ぶと組織全体がボトムアップに変わっていくんじゃないか、と。

中原
たとえば、最初から最後までトップがガーンとかえるんじゃなくて、組織の中の共同体が育つことで組織が変わっていく。ボトムアップの変革。でも、トップダウンでボトムアップを育成することは重要だと思う。こうしたことに注目している企業はあって、ワールドバンク、クライスラー、シェル石油なんかが組織の中に共同体を作ることに取り組んでいる。

-------コミュニティ・オブ・プラクティス終わり-------


-------ディスカッションはここから-------

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実践共同体の話ですけれど、多くのところからリソースを求められますが、企業秘密がもれるおそれに対しては。

中原
ある企業からもれるってことですか?企業の中にある実践共同体から情報が出ることはいい。実践共同体がめざしている姿は組織内で知識を流通させようとする姿。知識を出すことはナイーブに考えていない。おっしゃるように、今まである部署のある人が知らなかったことを、よその部署の人が知ることでセキュリティの危険は増すかもしれないけれど。

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堀田
この時期にこれが出てきたことに意味がある。今まではひとつの企業で、ひとつの部署に閉じこもってきた。連結、アライアンスで、基本的にひとつの企業の中にナレッジを取り込んでおくんじゃなくて、少し知識を出して、またこっちも知識を出して、創造していく。連結しようと思っているところにはこっちも出すし、あっちも出す。参入するとしても、敵が参入してくることを想定しているわけではない。

中原
ナレッジマネジメントの事例として有名なセブンイレブンは、昔から強固な情報システムをもっていた。そして、店舗内では、仮説・ノウハウをつくりだすことが奨励され、そこでつくりだした仮説なり、ノウハウは、カイシャで共有されている。そのセブンイレブンが、チーム・マーチャンダイジングをはじめた。今までセブンイレブン内でノウハウの知識をもっていた。それを問屋やメーカーに分けてみる。そうすると問屋やメーカーは知識を出す。それは両者にとって利益になる。セブンイレブンでは冬でも売れるアイスクリームを明らかにした。

堀田
メーカーにとっては情報をくれるセブンイレブンとくっついていたい、セブンイレブンはメーカーに作らせたいから情報を出す。本当は造反して敵になる可能性はあるよ。だけどそこは強い関係で連結して生き残っていけない。

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森下
いわゆる実践共同体は内部的な摩擦がどう起きるか考えるとき、信用できそうだなっていう、モラルみたいなところが一番ネックになるのかな、と。

中原
モラルやルールを采配する人物はかなりデカイ。

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堀田
モデレーター=経営者ではないよね。何が違うの?

中原
モデレーターってのは、共同体でみんなに認められはじめた古参のメンバーなんかがやるといいと思います。通常、それは経営者とは違う。難しいのはモデレーターと経営者の考えが同じならいいけど、違ったら大変。

森下
それは権力を帯びるってことですか?強制力。

堀田
これもやっぱりセブンイレブンとメーカーみたいな関係じゃないのかな。経営している人がお金の主導権はもってるけど、彼にとってはモデレーションがほしいんだよ。そこだけで見ると雇用なんだけど、頼りあっている。

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仲林
協同プロジェクトと実践共同体の違いで、メンバーは自己選択である意味選んで入ってこられるわけじゃないですか。そのとき利益やお金が関わると、秘密の情報がからんでくるとうまくいかないんじゃないかな、と。

堀田
お金がかかるとプロジェクトチームになるんじゃないのかな、と。

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牧野
この話を聞いていて掲示板の話に似ているような気がして。参加する人間、テーマ。

堀田
モデレーターの役割。

牧野
司会進行役。どういうものがつぶれて、どういうのがうまくいくか。

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中原
コミュニティ・オブ・プラクティスは、あまりまだ手をつけられていないですよね。経営の人ってのはこの話って学習っぽいわけ。学習の人からみると、なんでこんなに自信ありげに予言するの、と思うわけ。だから、誰もまだ手をつけていない領域。特に日本では。

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平田
実際にこういうことが行われたら共同体の評価は誰がするのか、とか。

堀田
それはモデレーションなのかね?インセンティブ。

森下
さっきのインセンティブは組織の方からのインセンティブ。指示系統が別。

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牧野
実践共同体そのものに予算はおりるんですか?

中原
バックマンに関してはモデレーションに関する部署があります。たとえば、ナレッジマネジメントで有名なエーザイにも知創部ってのがある。ワールドバンクはもってない。

牧野
各々の利益になるのがいいのかな、と。予算がおりなくてプロジェクトチームになる。

山田
実践共同体がそもそも報酬を求めているのか、という。

堀田
NPOみたいなのかな。

山田
報酬がなくても、モチベーションをあげたり、満足度みたいなところ。

森下
組織をフラットにして、実践共同体。

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堀田
組織の新しいカタチがあらわれようとしてて、学習論から出てきたものと関係してるのは、ウェンガーが仕事変えたから(笑)。この授業に無理矢理もどすと、eラーニングの仕組みって学習の個別化に向かうとしたらね、学習の共同体とか、新しいカタチのモノをネットワーク上にどう作るかってのは課題だよね。iii onlineとかの話をちょっとだけして終わりたい。iii onlineでは、こういう理論がどう具現化してるか。

中原
僕は、協調学習とかコミュニケーションを通して学ぶことを研究している。iii onlineにもフォーラムにもあります。で、そのモデレーションは、大学院生がやってる。授業を行っている先生のドクターの学生さんなんかがやります。掲示板の盛り上がりがないときは、そのつど裏モデレーターも組織される。その人はモデレーターも分かってるし、原島先生の話も分かってる。

中原
最初、iii onlineも大変な時期があって、裏モデレーター部隊を組織してからはだんだんうまくいくようになった。

堀田
97年に僕は小学生用の掲示板のモデレーターをした。サクラをつくった。サクラの先生に元気づけられた子どもたちが書き込むことで、掲示板がもりあがった。半年後には僕が全然知らない学校の先生が書き込んできた。僕が去年つくったWebサイトにもサクラを用意した。20人。モデレーションとサクラデザイニング。そこってなんか面白いなって気がする。

中原
これはちょっと前に僕らが取り組んだ、ネットワーク上でロボットコンテストをしようってプロジェクト。子供がロボットつくって、ネットにあげて採点しあってオンラインコンテストで勝つ人が出てくる。そのときにも、サクラはいました。

堀田
教師用Webサイトの階層モデルってのはサクラ理論なわけよ。じゃ、どうやってサクラ作るの?っていうと、割と明らかになってないよね。どういう人がサクラが適しているのか、どういう風にサクラがふるまえばいいか。

中原
サクラをどう作るかというのと、eモデレーティングってのはどこの企業のほしいノウハウ。さっきURLあると思うんですが、Open Universityっていう英国の大学。そこはオンラインのディスカッションボードを持っていて、モデレーターを養成しなければいけない。さっきeモデレーター養成ギブスがあるって言ったでしょ、そういうソフトウェアがあります。で、使用された実績は結構あるみたい。

堀田
モデレータ養成。よくわからないけど。サクラの人にインセンティブ与えるとサクラはがんばるんだよね。

中原
僕が知りたいのは実践共同体みたいなのはどこにでもあるわけですよ。いろんなところにあるけど見えていない。あるいは見えているんだけど気づかれていない。あなたの周りにあるような実践のコミュニティを見つけて、それがどんな目的やゴールを持っていて、誰が工夫してモデレートしているか。あれば教えていただきたいと思います。


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