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メディア・リテラシー教育を考えるミニ・フォーラム

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■プレゼンテーション2
「台湾におけるメディア・リテラシー教育の現状」

(通訳:劉雪雁)


台湾政治大学の放送学科から来たソフィアウーです。静岡大学に招いていただいてありがとうございます。ビジュアルランゲージが一番わかりやすい。私が講演する前にビデオを見ていただきたいと思います。

(ビデオ視聴・「別小看我」)

かわいいキャラクターを起用したクーという商品とそのテレビCMについて

キャラクターがあって,子どもの性格を取り込んでいる。キャラクターは子どもたちがよくクーみたいな事をやりたいんだろうなというメッセージを伝えています。

#クーのキャラクター売り込み作戦
#生協の中にもクー,子どもたちの登下校時にもクーの着ぐるみが登場

こういったやり方でクーがなぜこれほど人気かが分かる。クーのPRのやり方を紹介して,番組の中で実験をする。コンビニの中には飲み物がいっぱいある。本当に味を区別することができるか。子どもと一緒にテストをした。

「今日は皆さんにいろんなジュースを飲んでもらう」
「飲んだ後の感想をアンケートに答えてほしい」

1日目に集めた子どもたちはクーのファン。
ブランド名を隠して,AとBの二つの種類で飲んでもらった。
2つの種類の飲み物は成分はほぼ同じ。
14人の子どものうち6人しかクーがおいしいという答えはなかった。

3日後にもう1回実験をする。
今日も2種類の飲み物。
1つはクーで,もう1つは番組が架空のブランドを出している。
実際は,この日も前回と同じジュースを置いておきました。
ただし,放送のブランド名を出しています。

もう1度テスト。
飲む前にテレビCMをみせる。

>>クーのCMと番組架空のCMに関して子どもたちの感想
「放送は大事じゃないけどクーはかわいい」
「クーが雪だるま作りながらくしゃみしたのがかわいい」

「架空のキャラクターはあんまりかわいくない」
「子どもらしくない」
「私が買うときにはブランド名には影響されない」
「このCMに限ってみれば,クーはキャラクターもストーリーもよくできている」

子どもたちは影響されないと言っているが,そうなのか?

「クーがいい」
「そんなに甘くもないし」

実はこの子は3日前には違う反応をしている。
前回クーを飲んだときとは全然違う。

14人のうち7人が前回と違う(クーが好きという)判断をした。
なぜそう判断したか?

「やっぱりクーがいい」
「わからない」
「判断が違ったのは今日飲んだから,日によって感覚が違う」
「おそらくCMのせいでしょう」
「はっきり分からないけど先日はどんなブランドか知らなかったから」

2回の調査にわたって,2回目にはクーが好きになった人がふえた。
CMが私たちに影響しているでしょう。
流行は本当はメーカーが作り出したもの。
かつてみんな好きだったものが今はどうなったのか?
たとえばピカチュウ

「ピカチュウのグッズを昔は集めていたけど,今は集めていない」

かつての流行は新しい商品に置き換えられている
さておもちゃを買うときに広告の影響か,自分の判断か?
体験談があれば番組に送ってください。

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さっきの番組は「別小看我(甘く見ないで)」という台湾の公共電子台と政治大学のメディア・リテラシー研が研究したもの。今まですでに60のタイトルを作ってきました。講演に戻ります。台湾でなぜメディア・リテラシーするときにこういう内容を扱うか。メディア・リテラシーは中国語では「媒体素養」。似たような言葉としては,

・メディア批判
・メディア観察
・メディア監督
・メディア識読
・メディア教育

これだけメディア・リテラシーに似た概念が出てきたのが,台湾のメディア状況と深く関わっている。1949年〜1988年までは政治的戒厳令が敷かれていて,それはメディアを制限していた。1988年までは私たちのところでは新聞は2紙しかなくて,1つの新聞は3ページしかなかった。今は大手の新聞は6つ,夕刊紙は2つ。ページ数の制限はありません。

ラジオ放送。33局から現在の139局に増えた。地上波は3局から5局にふえて,そのうちの1つが公共放送。ケーブルテレビは64のシステムがあって,普通の台湾の家庭は100以上の番組を視聴できる。けれど市場の規模は増えていなくて,広告の市場が限られているから。非常に激しい過当競争になる。昨年の4月に「天下」という雑誌…知識人が読む雑誌です…が特集を組みました。特集のタイトルは「メディア痴呆〜みんな一緒に国をほろぼそう〜」というタイトルが付いています。内容としては台湾のメディアは暴力,ポルノ,スキャンダルを放映してバランスのとれた報道をしていない,という批判がされています。台湾でメディア・リテラシーがスタートした原因のひとつは,メディア環境(健全ではないメディア環境)がよくない。一般の市民が声を出すルートがない。メディア・リテラシーという道具を使ってメディアを批判する,という点があります。


世界的なメディア・リテラシーの発展の流れをみれば,1930年代から60年代は視聴者が受動的な立場に居た。1960年代から70年代までは視聴者は力を持つ者だと変わってきた。1980年代から90年代の間は個人を中心にして,メディアと個人の関係を重視する流れになってきた。台湾では昨年の10月31日にメディア・リテラシー教育白書を出した。下の2枚の写真は当時の記者会見の様子です。

白書の中で言われている重要なコンセプトは「市民に権利を渡す」ということ。ひとつは知る権利,情報を発信する権利,議論する権利,個人のプライバシーを保護する権利,メディアにアクセスする権利。もっとも大事なのはメディア・リテラシー教育を受ける権利。もうひとつ大事なキーワードはコミュニティー。コミュニティーの中には個人がコミュニティーの主体で,メディア・リテラシーがコミュニティーの主体ではないと述べている。メディアの問題はメディアだけが作り出したのではなくて,コミュニティーの中の文化に影響されていることを皆さんに伝えている。ひとつの主張としては個人とコミュニティとメディアの関係を主張する。読みとるだけじゃなくて,批判じゃなくて,自分の主張を発信する能力も強調する。


世界各地の経験と台湾自体のメディア環境を総合した結果,メディア・リテラシーの5つの分野ができた。

1.メディアのコンテクストを理解すること
2.メディアによる社会に対する再現を考えること
3.視聴者がどういう意味を持っているか,消費者なのか市民なのか
4.メディア組織,組織から生まれたものなので,メディア組織はどういったものか,どのように構成されているか
5.メディアを影響して,メディアアクセスすること

さっきのドラえもんの例でいうと

レベル1
ドラえもんの物語を理解する

レベル2
なんでジェンダーの問題はドラえもんではこのような表現の形になったのか

レベル3
たとえば子どもたちにとってどのようにドラえもんを見ているかを考える

レベル4
ドラえもんがなぜ放送できたか,なぜテレビで流れているか,メディアの組織によって作り出されて放送していることを分析する

レベル5
子どもたちが自分たちが考えた,自分なりのドラえもんを作らせること

メディア・リテラシーの概念なんですが,ミクロからマクロへ。テキストからコンテキストへ。分析から行動へ,という段階があります。


台湾のメディア・リテラシー教育委員会が3月末に設立される。それについて簡単に紹介する。これからメディア・リテラシーに取り組む具体的な操作。まずは幼稚園から基礎教育の段階では,メディア・リテラシーという科目をもうけずに,今の科目にメディア・リテラシー教育を織り込む。高校の段階,大学の段階では選択授業をもうけます。もっとも大事なのは,教員の研修と,コミュニティの中のオピニオンリーダーの研修。教員研修システムをもうけて,オピニオンリーダーを育成するためにワークショップを行う。「終身学習」と書いてあるんですがこれは生涯学習です。生涯学習としての取り組み。日本の公民館みたいな施設を使って,メディア・リテラシーの概念を普及させていく。日本でのmellプロジェクトでやった実践に比べると,台湾で欠けているのはメディア側の人はメディア・リテラシー教育に参加することがまったくない。だから白書の中にもメディアに勤めている人は,メディアを作り出すという意味で教育者でもあるという概念を広めたいとあります。メディア・リテラシーはメディアと自分のことを批判的に考えるとか,よくいわれるんですが,そうするとメディア・リテラシー教育に対する評価や研究も行われなければならない。さっき申し上げたこれからの主張ですが,それはまだ始まっていないんですが,私たちも短期間ですぐ達成できるという期待もしていない。


これからメディア・リテラシーを広めていくときには,特に台湾では注意しなければならない問題がある。メディア教育の正当性を主張するためには,綺麗な言葉だけ使って,実現できない主張をしてはいけない。地に足のついた努力が必要です。今はメディアが大きなミスを犯したそれによって視聴者が怒って,その情熱におされてメディア・リテラシーを主張している。そればかりに頼ってはいけない。メディア・リテラシー教育は何人くらい教育したか,どのくらいの人向けに教えたかという教える側の数字を強調してはいけない。学生はどのくらい勉強したかを重視する必要がある。大学の中で研究としてメディア・リテラシーを取り上げるときは,実践だけでは限界があって,このことをより深く研究し,またいろいろなデータベース(資料)を作り上げることが必要です。

今は大学レベルを中心に政策レベルの話をした。張先生に小学校での取り組みを紹介してもらいます。


こんにちは。台湾政治大学付属の張です。芸術と人文を担当している。昨年私とソフィア先生が協力して6年生2クラスの芸術の人文の枠内でメディア・リテラシー教育に取り組んだ。

まずソフィア先生と助手の方に来てもらって,子どもたち向けに2回にわたってメディアによるリアリティーの再現とステレオタイプについて講義してもらった。人種とジェンダーについて主に話してもらった。学生は非常に興味を示した。福岡の子どもたちと私たちの学生とNetMeetingを通じてテレビ会議を開きました。それを通じて,自分たちがもっている日本に対するステレオタイプと,向こうの子どもがもっている台湾に関するステレオタイプを比較してみた。簡単な設備で出来たものなので,ほとんどお金をかけていません。

私たちの教育と目的。子どもたちがメディアの消費者から,自分でビデオをまわして作ることで発信者まで発展させていく目的がある。実際に子どもたちにカメラを渡して,作品をつくる実践をさせた。これは子どもたちが政治大学の院生の協力の下で,テレビカメラの使い方を学んでいるところです。それから,絵コンテを作らせて,子どもたちが授業の中で絵コンテについて議論しました。実際にキャンパス内で撮影の練習もしました。休暇の時間を使って友達と撮影した。撮ってきた映像を学校のパソコン室を使って子どもたちに自分で編集作業をさせました。たぶん,この段階が全体的な流れの中から,撮影よりも編集の作業が大事だと思っています。学生達の主張と意見を十分に尊重するのが私たちの意見ですが,足りない部分は子どもたちが再取材して撮ってくる。アドバイスもしますが,主な構成と流れは子どもたちの意見を尊重しています。


私たちは全部で11チームあって,そのうちの1チームの紹介。チームに入っている子どものおじいさんがつい最近亡くなった。おじいさんがアマチュアのアーティストなんです。

(ビデオ視聴)

「父が絵を描くのが好きだった。たまたまひとりの先生にであって学校ではなく個人で勉強した。
水彩画やデッサンからはじめた。
たとえばこのオウムはおじいちゃんの作品。こういった絵を描いて子どもたちにあげています。
静物画も好きで,果物をいろいろ買ってきて描いていました。紙粘土を使った絵も描いていた。木片の上に紙粘土をつけた魚の作品。」
「人形劇の人形も作っていた。服も。」


子どもたちがテーマの設定から取材,内容の構成,最後の編集まで自分でやってきた。この全体的な勉強の中で非常にたくさんのことを学んだと思う。今日は時間の関係でここまでにさせていただきます。もし興味があれば私のサイトを見ていただいて「真実と再現」のコーナーを見ていただければ分かると思う。シェーシェー。

http://idv.creativity.edu.tw/ortus/


もうひとかた。山奥の学校の先生。そこでは学校全体がメディア・リテラシーの取り組みをしています。


私の学校は比較的へんぴなところにあります。全校7クラスしかありません。堀田先生が訪れたことがあります。


台湾では幼稚園から小学校の段階ではメディア・リテラシーという科目はありません。ソフィア・ウー先生といろいろ話し合ってこの勉強をしましたので,この概念は非常に大事だと気づいたので,私たちの学校の授業の中にも取り込みました。学校では2年生から6年生のクラスでこういった授業をしています。2年生は生活科目の中に,3年生は芸術と人文,5・6年生は総合活動の中でやっています。

最初はそれほど難しいことはしない。子どもたちにいろいろな種類の番組をみせて感想を聞いた。しかし実践してみたら,このようなやり方はあまりいい効果をおさめることはできませんでした。そうすると私たちはいろいろな学習シートをデザインしました。子どもたちに描いてもらったりしました。

2年生の子どもたちは小さいので,ウチで見ている子ども番組を見せます。まず自分が大好きな番組をあげてもらいます。なぜこの番組がすきか理由を説明してもらいます。私たちがそこに問題を見つけて指摘します。

3年,4年は子どもたちはCM見るのが大好き。CMでやっていることを模倣させたり,再現させたりする。さっきのクーのCMをどういう風に表現しているかを子どもたちに表現してもらう。たとえば子どもたちはまねて表現するときは,自分なりのストーリーを作って,CMと反対の内容のCMを作ったりします。たとえば,クーのCMがあったんですが,クーの中にはかわいいキャラクタとして登場する。私は子どもに「もしクーがおいしいのではなくて,まずい飲み物だったらどう表現するか」と聞いてみた。だいたいの方法は子どもたちに絵に描いてもらうとか,身体で表現してもらう。私たちの子どもは貧しい家庭の子が多いので,カメラを使う機会はなかった。だからたいていは絵や粘土で表現する。表現をやった後でディスカッションをします。

5年生は総合学習の中に入れるので,授業的には柔軟性があります。先生が自分なりに適当な科目の中に入れてやる。ジェンダーの問題なら社会科の時間で行う。先生がこういった自分が使いやすい科目を協力させることで取り組んでいる。最後には全体的なディスカッションを大事にしている。一学期は6〜8の授業を使います。ありがとう。


ありがとうございました。クーのコマーシャルについて俳優が来ているので現場で演じます。

(自分たちでつくったCMの実演)

ある非常にまずい飲み物があります
クー
飲んだら吐き気がする飲み物は
クー
一番まずい飲み物は
クー


メディア・リテラシー教育は非常に長い教育で近道はないと考えています。今回これほどいいチャンスを提供してくれて,台湾の現状が報告できて非常にうれしく思っています。これからもいろいろ協力しています。

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