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○講座記録
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  実践報告2−ディスカッション2
  ミニ・トークセッション
■実践報告2
 「パソコン室利用アップ作戦」
 五十川直子(浜松市立佐藤小学校)

五十川
こんにちは。佐藤小学校の五十川といいます。今日はパソコン室利用アップ作戦についての発表。パソコン室利用アップというのは,情報委員会の活動。昼休みのパソコン室をたくさんの子どもを呼び込む場にしたい。

写真。これはマウスレッスンの様子。これが情報委員会の子ども。このように委員会の子どもたちが,一般の子どもたちのめんどうをみながら会が進んでいる。去年は誰もパソコン室に来てくれないことが,122回中20回。6日やると1回だれも出ない日がある。今年度来ない日は72回中2回だけだった。全校児童199人中来たことがない子は10人。しかも,2学期は私は行っていないので教師いらず。ではどのような手だてが有効だったのか。

今日の話の順番。背景,目的,方法,結果,考察。研究にするために苦労したことについてもふれたい。困っていたことが3つありました。堀田先生におととし(2001年)の夏に初めてあって情報教育をやってみた。だけど3つ困ることがあった。

1.子どもたちはパソコンやデジカメにふれてない
2.昼休みのパソコン室に来ない
3.担任を持っていないので授業での利用促進が難しい

パソコン室の利用アップを図るためには,やってくる子どもたちにとって楽しい場所でなければいけないと思った。楽しいというのは,やり方が分かるというのがあると思う。うった手だては2つ。委員会の子のスキルを向上させるためのノルマ。2つ目は,それを発揮する場面。

スキル向上のためのノルマ。昨年度の終わりから始めた。絵を描かせた。その後,4月からは今度は課題をもうけて,それをパソコンで毎月作る課題。クイズ,解放予定日の告知。

日常的に発揮する場。具体的には火曜日にマウスレッスン,木曜日にお絵かき体験。それまでは曜日ごとに使う学年が決まっていた。

#マウスレッスンと,お絵かき体験の説明。

特別にスキルを発揮する場。イベントを開催。1学期には「キャラクターまねまねコンテスト」。「2学期にはデジデジラリー」。宿題で出していたキャラクターを子どもたちにやらせて,まねをさせる。デジデジラリー。委員会の子どもが撮ったアップの写真を,ルーズで撮影してくるという課題。

目的。この2つの手だてが,本当に昼休みのパソコン室の利用アップに効果があったかを確かめたい。記録をとって,必要なデータを取り出してみたい。

実際のデータ。手だての効果をたしかめるためのワークシート。私が与えたノルマがスキル向上に役立ったとみることができる。

写真や文字の数が増えている。

学期ごとの反省カード。技を覚えられてよかった。

内容を定める前のものと,後の平均利用人数。平均6人アップ。

内容を決めたとき,決めていないとき。決めた方が利用人数が9人アップ。

委員会の子がマウスレッスンをやったら人がたくさん来た,という記述。

お絵かき体験に参加した2年生は「うれしかった,また来たいです」と感想。

2年生のひとりひとりがいつ何をしに来ているか。黄色がマウスレッスンで初めてPC室へ。その後繰り返し何度も来ている。これは内容を定めた方策がきっかけとなり,継続的に来るようになった。

デジデジラリー。募集16人に対して70人の応募。

まねまねコンテスト。よろこんでいる。

デジデジラリー。委員会の子がうれしそうに教えている。

5年生の参加した子。委員会の子からアドバイスをもらった。また参加したい。

これらのデータから何が分かったか。

手だて1の効果。委員児童のスキル向上を図る効果があった。

手だて2の効果,委員がパソコン指導員として,一般児童に教える場ができ,互いに喜びになって利用アップした。

制作物の中に,パソコンを意識した内容が入っている。当番のときのうれしそうな表情,「また来てね」のメッセージ,委員会の活動の反省にも今後の利用方法についてのアイデアがある。したがって教師いらずの利用アップになる。

研究にするために苦労したこと。ゼミでの発表。堀田先生には「腹黒くやったはず」「『やったこと日記』になってる」というコメントをいただいた。次の発表では「本当に効果があったんですか」と学生からつっこまれた。

私は研究という視点をもちあわせていなかった。直感にまかせてデータを集めていた。

#五十川先生の苦労の歴史について解説。1年間実践を研究にするために苦労してきました。

さんざん斬られて分かった研究のために大切なこと。1.教師の意図と手だてを明確にする 2.データを示して説得力を出そう。

一番大事なことは,実践を計算高くデザインすること。

■ディスカッション
 指定討論者:山内祐平(東京大学大学院)

堀田
一生懸命やった失敗は価値があるからね。僕はかなりひどい役で出てきました。五十川さんたったひとついいことあって,根性がある。一生懸命続けて,これを1年間やってる。やっとここまできた。これからディスカッションしますが,1分ぐらいご近所トークを。

(1分トーク)

中川
教育論文なので,そもそもなぜパソコン室を利用するか。意義が見えてこない。

五十川
今日は,そのことはお話しませんでしたが,子どもを変えることで学校を情報機器を盛んに使う学校に変えたいという願いがある。うちは先生たちの机上にワープロが並んでいる。そういう人たちに呼びかけるよりは,子どもを変えたほうが早いんじゃないか,と。

堀田
それは子どもの話だよね。パソコン室の稼働率をあげるのか。

中川
授業に結びつくから,というのを入れないと。

堀田
いろいろ思惑はあるけど,正当な理由が必要だね。

児玉
コンピュータ室に人を集める意義はよく分かった。今言われたように,なぜ集めないといけないか,授業との関連。先生が腹黒くデザインするんであれば,そこまでひっぱってきたほうがいい。なんらかの授業とリンクさせた形で発表ができればよいと思う。それとちょっとずれたところで,この研究は結局は全校生徒をターゲットにしているのか,それとも委員会をターゲットにしているか。

五十川
(うーん)全校生徒です。委員会の子どもを通して全校生徒に広げる。

堀田
でも手だては委員会の子だったよね。

五十川
私が直接働きかけた子が委員会の子たちだったので,その手だてを書いてきた。

児玉
結局,子どもたちが集まってきて何かをやるというのは,「楽しい」とか「わかった」という実感があるからリピーターになるんですよね。それはどこのデータに表れている?

五十川
デザインしちゃう前からいろいろ入れてしまったので,どういう視点でデータをとっていったらいいかが,私の中で明確になっていない。ほしいものが返ってこない。

堀田
どういうふうにしとけばよかったのかな?

児玉
まず最初にどちらをターゲットにするか。委員会をターゲットにしたのはいいと思う。だけど,五十川先生は全校生徒を意識している。だからよけい自分を苦しくしている。

山脇
私は研究論文として,五十川さんがパソコン室の利用アップをさせようというテーマになったのか。聞かせていただくと,ほかのところにいっぱいいい材料が埋め込まれていて,テーマにもレベルがあって,低いほうのレベルにあわせてしまっているんじゃないか。高い価値の子どもの変容や学びを述べることができる実践だと思う。

堀田
じゃあ,どうすればもっとよくなると思う?

山脇
委員会の子どもの何が高まったのか。どこを子どもが意識し,活動の中で何を学んだかを明らかにすると,その子どもの学びから手だてなどが明確にできると感じた。今のでいくと,アップするということをみんなには伝えられる。だけど子どもが何を学んでいるかが述べられていない。

木原
どういうのがレベルが高くて,どういうのが低いのか。

山脇
子どもたちが企画をもって活動にのぞむ。委員会の中で話し合い,アップやルーズのカメラコンテストを思いつく。そういうのを思いつくのも変化。客を呼び集めるための手だてとその循環が僕には見えていた。子どもの変容を追っていくことも,高まりを追っていける。

堀田
レベルが高いかどうかってのはまた別の話な気がするけど。

高橋伸明
イベントを組んだ方が利用率があがったのが意外だった。うちの学校をみると,インターネットで検索してそれを見ている。満室状態というのが実体。そうではなくて,こういう企画をして,イベントすることで利用率があがったのが新鮮。

五十川
今まではパソコン室が一日中閉まっている状態だった。昼休みだけが唯一あいている時だった。子どもたちはそのときに行っても使い方が分からない。

中島
データの切り分けを悩むんですが,もう少し幅をもたせた切り分けでまた別のものが見えてくるんじゃないかな,と。委員会が関わりのある曜日,そうでない曜日で,年間での利用率の変化をみるとまた別のものが見えるような気がする。

堀田
同じ話はゼミで何回かやってみた。大事な観点です。

山内
では3つほど。

1.なぜ利用促進が必要か
2.2つの手だての関係は
3.本当に効果があったのか

1.なぜ利用促進が必要か
なぜ利用促進が必要か。中川先生からご指摘がありました。研究ではパソコン室の利用がふえたらいいに決まってるじゃん,ってとこを語る必要がある。いろんな研究がされていると,どの研究の,どこの流れに関わっているかを書かないと研究の位置づけが分からない。基本的にはいろんな研究がされていて,以前の研究の間に位置づけをする。これによってどういうことを明らかにしたいかを明らかにする。そのときにモデルという形で出した方がいいと思う。「手だて」という形で出しているのでややこしい。

なぜパソコン室の利用が必要か。たとえば,情報活用の実践力を高めるけど授業中は難しい。授業外の時間での利用は誰それの研究で言われているとか。なんで必要かというのは,研究同士をつなげる接着剤みたいなもの。

2.2つの手だての関係は
「こういう手だてを取ると,効果があった」という研究。実は大変危ない研究です。教育心理をやっている方からすると「●●をやると,▼▼になった」というと,心理モードになっちゃう。「本当に効果があったのか?」と。ちょっとシミュレーションしてみたい。2つの手だてというところで,違うアプローチが考えられる。なんでこの2つの手だてかということを,先行研究を調べて論証する必要がある。僕がみたところ,スキルの設定と,場の設定の関係がよく分からない。実は場の設定だけでもいけそう。2つ設定することで,研究が複雑になる。ただでさえ実践研究は複雑なので,研究するときにどれだけシンプルに見せるか。一種のマジック。そのための手だてをしっかりやる必要がある。スキル発揮とスキル向上を整理する必要があると思う。

3.本当に効果があったのか
効果。いろんな見方がある。データを恣意的に抽出してないか。よさげなデータ。恣意的に抽出して,自分の言うことを言う委員会の子がいたらあとは全部恣意的に言えてしまうこともありうる。解釈として妥当かどうか。たとえば資料のところに「あたらしい操作を覚えた喜びのあらわれ」とあって,デジカメの使い方がもっと詳しく分かったから,とある。それで本当にあらわれになってるのか。

本当に増えたのかというところをつっこまれる。五十川先生非常に上手な出し方をしている。使わない日が減った,と。ある意味で活動を組織したら使わなくなる日が減る,というのはみんな想像できる。平均利用人数が10人から16人に増えた。10と16はけっこう微妙な数字。僕はちょっとexcelで検定してみた。そうすると出ない。有為差がないので効果がないと言えてしまう。非常にシンプルに言う場合,おまじないだと思って検定をかけて,ちゃんと出ているというデータをとったほうがいい。

要するに,効果の検証は丁寧にやって,謙虚ぎみに「たぶん言えてるんだけど,確実じゃないこと」と言ったほうがいい。確実なことを言ったほうが安全。みなさん陥りやすい罠で,因果関係の立証はものすごく難しい。「●●によって,××になった」というのは立証が難しい。たとえば,パソコン室の利用が増えたのは,五十川先生が熱心だったからかも。子どもが自然と動いて,影響を与えてという可能性がある。そうすると手だてが本当に効いたかどうかは難しい話。研究を因果関係の立証にせずに,手だてをとった結果,委員会の子の操作スキルがあがったとか,教える活動が増えたとか,確実に言えるところで留めておくほうが無難。その先,パソコン室の利用にいい影響を与えると思われる,とか推測にしておく。

堀田
ありがとうございました。浜松の仲間との研究会でも似たようなことが出たと思う。研究の方法と,プレゼンと,ぐちゃぐちゃにやってる。1年かけてここまでやってきて,かなり妥当な指摘を受けている。僕も近くで見ていたので,五十川さんの変容と玉砕ぶりを見ている。このことは学会発表に挑戦している人はズキズキと来ているんじゃないかと思う。これから休憩にします。


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