■表昌先生による「What's TOSS?」とその後のフリーディスカッション
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What’s TOSSということでお話します。
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TOSSとは何か。"Teachers' Organization of Skill Sharing"の頭文字をとったもの。Teachers'
Organizationとは教師の組織。Skill Sharingは技術の共有。
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リーダーが向山洋一先生。1943年生まれで学芸大出身。東京都でずっと教員をされていて,2000年の3月に退職された。TOSSというのは最近の名前で,その前は法則化。目的は,20世紀の教育技術・方法の集大成。それが,21世紀ということになったということでTOSSに。向山先生は,跳び箱を跳ばせるための技術を教師は共有してこなかった,ということからこの運動を始められた。
堀田
表先生,その意味が学生には分からないかもしれない。
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跳び箱を一時間で跳ばすことができるという人は,斎藤喜博という人が唯一本に書いていたんだけれど…
堀田
跳ばせられるとは書いてあったけど,どうしたらいいかは書いていない。
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向山先生は全員を1時間で跳ばせられるために5年かかったと。でもその方法を使えば,ほとんどの教師が3分くらいで飛ばせられるようになった。でもその簡単なことが広まらなかったことには何か問題があったんじゃないか。ということで,この運動を始められました。
堀田
ちなみに,僕自身は跳び箱跳べないけど,1時間で跳ばせられるんだよね。なんでって思ったね。技術ってもののすごさを体感したね。
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跳べた子供はとにかく喜ぶんです。
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TOSSの目的は全国の多くの教師が,授業・教育にすぐに役立つ教育技術・指導法を開発し,集め,互いに追試し,検討しあって,自らの授業の技術を高め,集められた教育指導法自体もよりよいものに発展させことです。
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組織のリーダーとして向山先生。東京に中央事務局,大阪に関西事務局があって,全国に600のサークルがある。総勢1万人くらいが参加している。海外にも少し。
堀田
熊本行ったら上海日本人学校から来てたね。
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理念は4つあります。
1.教育技術はさまざまである。できるだけ多くの方法をとりあげる。(多様性の原則)
2.完成された教育技術は存在しない。常に検討・修正の対象となる。(連続性の原則)
3.主張は教材・発問・指示・留意点・結果を明示した記録を根拠とする。(実証性の原則)
4.多くの技術から,自分の学級に適した方法を採択するのは教師自身である。(主体性の原則)
堀田
これについて,学生から何か?
村上
3が,目的とか,評価というのはなくて,「見せればわかる」という理念が表れてると思う。
森下
最後の1項目以外は僕らの分野にものすごく近い。
堀田
そうだね。詳しく説明して。
森下
最後の1項目は,教師がブラックボックス化している。教育工学的にいうとお題目としてはそこを明らかにしなきゃ,という話になっている。
堀田
技術はいろいろあって完成はないと。何もそれ以上のことは言っていないのに,TOSS以外の人は「みんな同じ授業するのはおかしい」と言うわけね。表先生の周りはどうですか?
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地域によって差がありますね。
宮崎
ひとつ前のスライドで,「互いに追試し」とありますが,追試された結果は蓄積されるんですか?
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インターネットサイトに追試というものであがっています。
堀田
「教室ツーウェイ」にも載っています。基本的に誰かのいい実践は,ほかの誰かに追試されて,そういうのも含めてでますね。
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TOSSのキーワード。キーワードのひとつとして,授業の上達論をあげました。教師だけでなく会社でも使われています。2つ目,子供を動かす法則。
堀田
これは教員の世界では「このタイトルはないだろう!」と言われた。企業の人には「これはすばらしいタイトルだ!」と言われた。人が人を動かすのが当たり前という感覚と,でもそうじゃないっていう人たちとね。
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「黒帯6条件」と「論文,ビデオ審査」。TOSSはすぐれた教育実践を広げるというのがある。今はインターネットですが,昔は紙に書いて印刷して審査してもらった。
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TOSSが始まった頃は一気飲みがはやっていたんですが,若い教師の間に一気読みというのがはやった。一晩で一気に読んでしまうことです。
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「手遅れの30代」という言葉もありました。
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「逆転現象」。クラスの中で勉強もできない,みんなから嫌われている子が逆転する場面を仕組んでいく。
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広めるために発問,指示を指導案に明示するようになったのはTOSSです。
堀田
学校の指導案ってのは「まちづくりについて考えさせる」という書き方しかしないのよ。だから流通しない。TOSSはそれをやった。
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黒帯六条件の2番目に,すぐれた実践を100追試しなさい,というのがある。
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向山先生はぶれない。評価基準は,子供の事実を,教師の腹の底からの実感,の2つだけ。次に,新しい教育課題への取り組みについて話します。
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エイズ教育。エイズの人にさわるとうつると思っていた頃にアメリカから東京に専門家を呼んでシンポジウムを行った。ほかの教育団体からはTOSSはつぶれると言われたんだけど,向山先生は「これからの時代には必要なこと」とやりとげられた。
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ジュニアボランティア教育。日本の教育はこれまで人の役に立つ,ということを教えてこなかったんじゃないか,ということで始められた。僕らも当時,社会福祉会館を車いすやアイマスク貸してください,と回った。それは,当時はボランティアを授業でやるということがなかった。今は当たり前ですがね。
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21世紀はエネルギー問題が重要な課題。きちんとしたデータではなく風潮で語られている。エネルギーが枯渇するのはどういうことかなどを正しい知識を身につけ考えることができるように取り組んでいる。
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「英語教育」。向山先生も「21世紀の基礎学力は英会話とインターネットだ」といって,英会話にいち早く取り組んだ。TOSSインターネットランドも1999年に堀田先生と向山先生が東京のお寿司屋さんで…これも夜生まれましたね。それから半年後の12月25日富山に集まって,第一回の会議の参加条件がメールアドレスを持っていることだった。
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「チャレラン」。チャレンジランキング。子供たちの遊び。30人31脚とか。
堀田
空き缶積みとかね。子供がはまってやる。
森下
記憶はあるけど,どのくらい前ですかね?
小川
20年…10数年前。
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次にTOSSの開発してきた教材について。五色百人一首。百人一首の札を20枚ずつに分けてやったと。1試合3分くらいでできた。学級作り的には男の子と女の子が仲良く手が触れあう機会だし。
堀田
これは20に絞ったのがミソなんだよね。1タームを短くしたのがすごい。
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写し丸。スーパーとびなわ,くるりんベルト。
堀田
最近,子供のなわとび買う機会があったけど,こういうの当たり前になったよね。
森下
どういう縄跳びなんですか??
堀田
つまり,飛びやすい縄跳び。
小川
市販のだと持ち手が短いとか,飛びにくいとかある。
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新しいところでは輪郭漢字カード。今のトレンドとして,TOSSDAYというのを行って,全国270会場以上で,のべ1万人の参加者。日本全国でセミナーを行いました。サークルが行うセミナーを一斉に行った。模擬授業として高山先生がやられたような授業をスマートボードで。Flashやディレクターのコンテンツを使った模擬授業をする。
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運動体としては全国にたくさんのサークルがあって行っています。向山先生関係で3000冊以上の本が出ているんじゃないかなと。昔,若い教師が本を書くなんて信じられなかったんですが,若い人が情報を発信する文化が生まれたと思います。
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最後に富山のサークルについて。名前はTOSS万葉。代表者は北島三郎そっくりです。例会は月2回。各自のレポートを持ち合う。
堀田
まだ喫茶店でやってるの?
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まだ喫茶店でやってます。富山の方は集会場で。あと,合宿や飲み会。模擬授業。ビデオ研修はすぐれた授業者のビデオを見たり。あるいはビデオをもちよってあーでもない,こうでもない,と言ったり。自主的な研修会をサークルで行う。実は富山のうちのサークルもTOSSデイの秋編というのをやっている。以上ですが,これまでいろんな教育団体がありました。山ほどあって消えたり停滞する中でTOSSだけが若い教師を中心に成長して,なおかつ今も成長を続けているということです。
宮崎
組織の運動体?サークルというのがあって,さらに一番最初にジャルダン?という組織も?その対比というか関係は?
堀田
サークルが3つしかないけど,これが600あるんです。そのうちのひとつがジャルダン。
森下
単位は地域なんですか?
堀田
サークルだ!といった人が勝ち。だから3つ入っている人もいる。サークルは続けるためにあるんじゃなくて,何かをやるために続けている。模擬授業のサークルがあったらそれに入って,終わったら解散したり,抜けたりする。そうじゃないと続けるためにエネルギーを使って本務がおろそかになる。
高山
TOSS静岡というのは,各県内で特にTOSSランドの構築にがんばっている人たち。
堀田
堀田研究室は組織だけど,情報システムサークルとか,現場の先生とたわむれて研究するサークルとか,同じ人がいくつ入っていてもいい。大きいものから,小さいものまである。日本で一番大きいTOSSサークルは?
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大きくなりすぎた所は分散しているようです。
森下
うまくいくサークルと,そうじゃないサークルって?
高山
それは代表者がひとりでもやり続けること。
堀田
TOSS万葉はできてどのくらい?
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14年。僕は新採の2年目のとき。
堀田
そのときにできた?入った?
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そのときに入った。代表はずっと川口さんで,移行措置みたいなときがあって,そのときは僕ちょっとやってました。
堀田
ジャルダンは何年ですか?
高山
16〜7年。法則化運動がたちあがって1年後くらい。
堀田
うまくいくサークルとそうじゃないところって違いは。僕らはたとえばオンラインでコミュニティ作るんだけど,そういうのがうまくいくコツってのを知りたいと思っているんです。
前田
僕も3つ入っているんですが,地元では目的意識が,授業がうまくなりたい人がいて,課題が明確に決まっている。やることと,目的意識がある。ぶれない。ぶれないところが長く続く秘訣。
堀田
小さい地域の単位になればなるほど,授業をうまくしたいのが目的になる。そうすると国語でも体育でもうまくいくようにとなる。
溝口
思いがある,というか。
堀田
やっぱりうまい人がいないといけないってことかな。
前田
斬り役がいる。
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一生懸命やっても,いいか悪いか言ってくれないといけない。
戸田
認めるとか,認められることに快感を得る。
堀田
斬られることと,認めることと?
戸田
現場の子供の変容にもつながって,それが積み重なるといいのかなと。
堀田
それはたとえば先生としては何を認められることなんですか?
戸田
高山先生の淡々とした語りを認めたり,「それじゃ冷たいんじゃないか」といったりして,それを高山先生が認める。そのキャッチボールが続く。
森下
お話を聞いていて,きっと評価というのがぶれないというか,一定なんだろうと。
堀田
評価が一定というのは目的がひとつということだと思う。だから続くんだと思う。嫌な人はやめればいいんだよね。それに対して一貫したやり方でやっていく。目的的であり,それに対する評価が合理的であるというか端的であるというか。向山先生の論文審査なんか怖いと思うよ。それが5秒くらいしたら「はい」と言われていったん止まる。
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で「はい」と言われた後に評価がされる。
堀田
僕なんか優しいと思うよね,ほんと。
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あと,向山先生が各地のリーダーを上手に育てておられる。
堀田
「みをつくし」っていうサークルは,有名な詩文を覚えさせるサイトがあった。僕は「みおつくし」はあのサイトで知った。ああいうヒット作で知るとか,有名な人で知るとかね。やっぱり有名な人か,ヒットする教材,あるいはサークルであげて書いてヒットした本とかね。
森下
あともうひとつ,新入りをどうもてなすんですかね。入れ替わりありますよね。
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サークルの場では,ばーっと流れていきますから,サークル終わった後に悩みとか思いがあって来ているはずだから感想を聞いて,悩みを聞き出して…と。
高山
そうですね,最初に来た時はふつうの人たちより若干時間をかけて検討してあげる。
森下
でも,評価は甘くならないんですね。
高山
変わらないです。
堀田
新しい人が入ってくる頻度は?毎年5人は来るとか。
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若い人が入ってこないサークルに活性化はないと思っていて,TOSSデイという若い先生対象にやった講座の後に人が増えた。
堀田
それは若いというのは具体的に言うと何歳くらい?
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20代とか,講師の人とか。
高山
僕らもTOSSデイがらみで,7人くらいだったのがいまは倍くらい。
堀田
適正規模ってありますかね?
高山
15人でも参加するのは7,8人。
堀田
具体的には何曜日の何時?
高山
月2回。金曜日の夜7時〜9時。ひとりあたり15分とか。
石塚
現場の先生で,何割くらいの人がこのTOSSに関わっていらっしゃるんでしょう。
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…1割もないでしょうね。
堀田
「隠れ法則化」という言葉がある。僕は向山先生の本を全部読んでいて,でもサークルには入っていない。情報教育のうまい人もだいたい向山先生の本を必ず読んでいる。そういう意味では普及はかなり知られていると思います。サークル活動としてしているかどうかというと,単純に言えば1万人といえば,89万人の教師の中で1%。もうひとつは民間教育団体の中で,非公式の先生の集まりで一番大きい集まりはTOSSですね。ほかにもいろいろありますが,一時隆盛を保っていたけど,今はちょっと…というのとかね。そういう意味では比率としては高いけど,教師の世界で本書いて3000売れればいい,1万冊売れたら相当。
森下
メンバーは18人くらいとあったんですが,その「くらい」というのは。周辺にぼやーんとした人がいるとか。
表
TOSSデイの後に,入ろうかどうしようか迷っていると。
平田
実際入って,なじんで,立派に成長する割合ってのは?
堀田
すごいこと聞くね。堀田研は現場の先生が残る率は3割くらいかな?そういう意味では通り過ぎた人と,続けている人の割合はどうなの?
表
5割かな。
堀田
そもそも来た人は意識が高いからね。何が大変なんですかね。毎週の報告が大変?
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家庭的な問題もあるけど…考え方の違いはありますね。サークルの目的をはっきりとしておかないと。うちのサークルは昔TOSSの人とそうでない人がいた。そうするとややこしくなる。
伊藤
どうややこしくなる?
表
向山先生がいいという人と,そうでない人がいるとややこしくなる。
堀田
TOSSのサークルじゃなくて,地域のがんばっている人がいて,多くの人がTOSSのことをやっている人が混じっているところがある。
伊藤
つまり,それは,向山先生のやり方がいいっていう評価基準がややこしいということ?この授業はいい悪いっていう評価基準がごっちゃになるからややこしいということですか?
堀田
なんていうかね,違う方法だってあるわけよ。違う方法のほうがいって言い出すときりがないでしょう。僕らは今この方法をどうしようかというディスカッションしてるけど,ほかの方法がいいっていう人が出てくるとかみあわなくなるでしょ。
堀田
授業は多様だし,技術も方法も多様。集まって何かするのは運動だから,何かの目的のために集まっているのに,貴重な時間にややこしい話するのって,ことになる。運動体は異物を排除する方向に働くと思う。目的意識をもって義務じゃないからこそサークル。
高山
その,TOSSの中の意識のレベルが上から下まで。サークルの門をたたく人はある程度の意識でついてくるし,厳しい検討についてこれるか,あとは家庭の事情。
堀田
厳しさに耐えられない人はいますよね。
堀田
今やみんな使っている常識の教育技術はかつての向山先生の怒りに始まって,そのうちTOSSやTOSSに関係なく広がっている。それはもう成功してるんだよね。それを早く,的確に,適切に流通させる仕組み,あるいは感化させる仕組みがTOSSランドだと思っている。
村上
TOSSの中で教科や科目が違って話は通じるんですかね?
堀田
中学校は小学校ほど授業研究が進んでいないわけは,学習内容が違うから,分からないってことになっちゃう。内容が分かる話と,教育技術の話がごっちゃになっている。本当はうまい先生の体育の授業をみて使える数学の先生っていると思うんだよね。そういう,他人の領空侵犯みたいな感覚ってあるのかあな?
佐野
英語のMLで算数の雑誌とって学んでいて「英語だったらどうするか」と思って,みたりする。こないだ向山型数学がでたので,他教科から学べることがある。
戸田
落としどころがない。結果と目当て,についてはくすぶっていて,そこをTOSSが明快に答えていただく。ずーっとくすぶってる。
堀田
授業の目当てを書かない,評価も書かない。学習指導案の箱しか書かない。意図も書かない。
戸田
よいものを見分ける目ってのは,答えが見えていると見分けられないのかな,と。後は,子供をあちらに向けたいときに,光や,気配や,信念で向けることがある。そういうところが広がったりすることもあるから,あえて書かないのかなーと。
堀田
おもしろいね。向山先生に聞いたら?
森下
ふるえながら?
小川
法則化で計算された発問があったり,子供に動作で見せたりというのがある。そこが若い頃は読み取れなくて,HOW TO世代みたいに言われたときもあって,TOSSの中では計算された流れとか,間とかあると思う。それを計算する段取り,そこがなかなかつかめなかった。それをこう考えると次が浮かぶというのが,高山先生の発問であればお聞きしたい。
堀田
僕が思っているのは授業ができることと,授業が作れる技術は違うと思う。できるといえば,これが書いてあれば授業はできる。その授業が作れるためには授業の意図や失敗のドラマとか,意図と行為のセット,というのが必要。たぶん,授業が向上するのもあるけど,授業ができることを早めに流通させるためにこうしたんじゃないかな,と思う。だから書かない。それに,この授業をする目的は多様であっていいと思う。そこの思想なんじゃないかなという気がする。これは非常におもしろい話なので次に。
堀田
では表先生,最後に閉めの挨拶を。
表
今日はありがとうございました。
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